●更新日 12/24●
追い掛けて来る逃亡者
それは雨の日のこと。
私は友達達と、山にBBQをしに行っていました。その時は晴れていたのですが、帰りに雨に降られてしまい、また雨量が多く車が立ち往生する寸前くらいに激しく降っていました。
「これ・・・もしかしたら、国道まで出たら少しレストランか何かで休んだ方がいいかもしれない」
運転手のRがそう言います。
みんな確かにそう思ったので、早くこの山道を下ってあとは休もうということになりました。
「ねぇ、ラジオを付けて。こんな雨降ってるんだから、土砂崩れとかの警報が起きてるかもしれない」
横にいたNがそう言い、ラジオをつけて見ると大雨ながらもそういった警報は出ていませんでした。
暫く走っていた時のことだったと思います。
「臨時ニュースです。S県N市にて逮捕された犯人が、警察官を振り切って逃走したとの情報が入りました。詳しいことが・・」
「ねぇ、N市ってここの近辺じゃなかった?」
確かにこの近辺のはず。
カーナビを見てみると、このまま国道を進むとN市に入るルートです。
「やだー! N市に入るのやめようよ」
Nがそう言いました。
「馬鹿!入らないと帰れないんだよ」
Rが毒づきます。
結局、車に乗っているんだし、こんな広い街で逃走中の一人と遭う可能性なんてないとRが決めてしまい、そのまま走ることに。
私も、この時は確かにその通りだと思っていました。
N市に入る国道は雨のせいか、その犯人のせいか、実に空いていました。
暫くまた走っていると、少し先にカッパを着た中年男性らしき人が手をこちらに激しく振っています。
何で?この雨の中??
「おい・・・あのオッサン、こっち飛び出してきそうな感じで手を振ってるぜ・・・」
「いやー!絶対犯人だよ!R、絶対無視して!」
「うわ!こっち飛び出してきたぞ!」
その中年男性は、こちらに必死に近づいて来ようとしています。
私も、心臓がバクンバクンと・・。
「絶対停まらないで!」
ブッーーーーーー
クラクションを鳴らしながらハンドルを男の逆に切りました。
急にハンドルを切った為、体がドアに叩きつけられます。
通り過ぎる際、ちらってと全体が見えたのですが、男はまだこちらに手を伸ばそうとしていました。
そのまま誰もが無言のまま10分ほど走り、レストランで休むなんて話は立ち消えています。
一目散に東京に戻ってきて、ある街のレストランでお茶でも飲んで落ち着こうということになったのですが・・・
そこに辿り付く前の大型家電量販店のディスプレイにて、その逃げた男のニュースがやっていました。
「・・・逃走中の犯人ですが、40分ほど前に逮捕されました。なお、逃走中に重傷を負わせたAさん(39歳)は、国道にて行き倒れている所を警邏中の警察官が発見。病院に搬送しましたが、危険な状態です」
・・・。
「ねぇ、まさかあの私たちが振り切ったのって・・・」
「言うな!俺たちは悪くない!」
誰もが解っていました。
ですが・・・。
食事なんてする雰囲気じゃなく、そのまま解散ということに。ニュースでは逃走した犯人のことにはたくさん扱っていましたが、重傷のAさんについては全然触れない。
2日目、どうしても気になって眠れなくなった私は、県警に問い合わせてみた所、Aさんは何とか命は取り留めたという話を聞きました。
本当によかった。
仲間に話すと、みな気にしていたようで「よかった・・・」と溜飲を下げます。
しかし、謝りたくてもAさんはどこの誰かが解らない。でも、謝らないと・・。
今度、N市まで行って病院を探してみようと思います。
ここまでする必要がないのかもしれませんが、人として――――
西垣 葵
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