●更新日 03/21●

エレベーターを呼ぶ女


今回も、大手警備会社S社に勤める、関口さん(29歳・仮名)から伺った話です。

これは、関口さんの同僚のAさんの話であり、彼はその体験をしてから、一人で夜勤をすることが出来なくなり警備会社を辞めてしまったとか。


それはAさんが、とある会社のビルに詰めていた時の事。
その会社は残業をする人が少なく、夜中そのビルにいるのは彼一人という日もよくあったそうです。

ある夜、彼は無人のビルで、最上階の6階から下へ向かって定時の巡回を行っていました。
何の異常も無くエレベーターで5階、4階と回っていましたが、3階に降りた所、彼の他には誰も利用者のいないエレベーターはそのまま3階に留まるはずなのに、エレベーターは動き出しました。


驚いた彼がエレベーターの上の階数表示を見てみると、どうやら最下階の地下1階で停まったようです。

そのビルの地下1階は駐車場となっているのですが、夜間は出入口が閉まっていて利用することは出来ません。

その時は疲れていたので、間違って地下1階に行くボタンを押したのだろうと思い、気にも留めなかったそうです。

ある時、交代に来た同僚に何気なくその話をすると、その同僚も同じ体験をしたことがあるという。

誰もいないはずの地下1階に呼び出されたかのように独りでに下りていくエレベーター・・・。
彼はなんとなく寒いものを感じました。

しかしそれからは何事もなく数週間が過ぎ、そんな事があったというのも忘れかけていたある夜・・・。

その夜も彼は無人の建物の中を一人見回りをしていました。

6階、5階、4階といつも通り何の異常もなく下りていたのですが、3階の見回りをしている途中、エレベーターがどこかの階に停まった「ポーン」という音が、遠くからかすかに彼の耳に届きました。
その時以前あったことを思い出し、不気味な思いにとらわれつつも、警備員としての職務からエレベーターを見に行くとやはり地下1階に停まっています。

彼がエレベーターの前まで来た直後、それを待っていたかのようにエレベーターが再び動きだした。
階数表示は1階、2階・・・そして彼のいる3階を指したところで、エレベーターの到着を告げる「ポーン」という音が鳴りました。


開くドア。
しかしエレベーターは無人。

なんだ、ただの誤作動か、と胸を撫で下ろしかけたが、何かがおかしい。
なぜかまだ嫌な気分が晴れません。
もう一度よくエレベーターの中を見てみる。

何かがいる。
影だ。
髪の長い黒い女の影だ。

影はエレベーターからすぅっと出てきて彼の方に向かって来ました。
彼は逃げ出そうとしていたのですが、体が全く動かない。
声を上げようとしても声が出ません。

その黒い女の影は、金縛りで動けないでいる彼の目の前まで来ると、ふっとかき消すようにいなくなったそうです。

彼はその影が消えてからもしばらくの間、声を上げることさえも出来ず金縛りが続いたとか。


後に判った話によると、そのビルの地下1階の駐車場では過去に殺人事件があったのだといいます。
ある女性が不倫関係にあった男性に子供ができたことを告げ子供を認知するよう迫ったところ口論となり、逆上した男は持っていたナイフで女の腹を刺したそう。
男は刺したナイフもそのままにその場から車で逃げ出したが、気が動転していたせいか、ハンドル操作を誤って事故を起こし即死。
刺された女は助けを求めて、もうほとんど動かない体を引き摺り、
べったりと血の道を残しながらエレベーターの前まで辿り着いたものの、呼び出しボタンを押したところでで力尽きてしまったらしい・・・。


―――――――――


無念にも命を落としてしまった彼女は、今もまだ助けを求めてエレベーターの呼び出しボタンを押しているのでしょうか?

成仏する時まで、何度も、何度も、何度も・・・



西垣 葵 西垣葵


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