人柱と橋
皆さんは、人柱という存在を御存知ですか?
人柱とは、堤・橋・城などの建築物が水害や敵襲によって破壊されないよう神に祈願する為、生きながらに埋められた人身御供のことです。
我が国では、江戸時代まではさほど珍しい行為でありませんでした。
これは、私が体験した話。
東京都と埼玉県を分ける川を繋ぐ県境に、人柱を立てて建立された橋があります。
正確には「ありました」ですけれど・・・。旧橋は取り壊されて、今は新しい橋が出来る際、現場からそのままの形で運び出されて廃棄されたという曰く付きの場所です。
AM3:00頃だったと思います。
新橋を車で渡っている際、その人柱の話を思い出してしまいました。橋の下に埋め込まれた人達は、川と川の先にいた。
どういう思いで埋め込まれたのか・・・次世代のためにと自己犠牲の精神になれる人もいれば、無理やり埋め込まれた人もいるでしょう。
人身御供となった御霊に軽い祈りを胸にした時、私の視界が急にブラックアウトしました!
「おぉぉおお!!!」
「水神様のお怒りを静めるのじゃ!」
「ぎぃやしゃやぁぁ!!」
「我慢せい!村の礎となれ!」
「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏・・・」
確かに聞こえた。確かに見えた、その時の光景が。
怒号と悲鳴と、土を掘り返し、埋める音が。
その昔、人柱になる物は梁に括り付けられ、目を潰されたと言います。
神に捧げられる者に、見る物は必要ないということでしょうか。真相は解りませんが・・・
例え、埋め込まれた遺体は違う場所に移ったとしても、殺された時の残留思念はその場所に残る。
目がチクリと痛み出し、動機が激しくなり、怒号と悲鳴が耳鳴りを起こす。
その声と痛みが消えるまでの間、私は橋に車を停め、蹲っているのでした―――
西垣 葵
|