●更新日 09/30●


エンタメのオカルトとガチンコのオカルト・後編





オカルトの持つリアリティの崩壊は、業界に深刻な恐慌を引き起こした。
オカルトに強いライターやフリー編集者が続々と失業し、ベテラン作家でさえ、収入が大幅にダウンした。96年に「ムー」のミステリーコンテストで優秀作品賞を貰いデビューした筆者・山口敏太郎としては、業界が不況に追い込まれた時点から、オカルト作家としてのキャリアを積まねばならなかった。普通なら、己の生まれた時代を恨むところだが、筆者の場合は違った。これはチャンスだと率直に思ったのだ。

「自分がオカルトの戦国乱世に生まれたのは、千載一遇の幸運である」
と考え、新しいオカルトスタイルを構築し、違う手法でオカルト業界を生き抜く方法論を模索することにしたのだ。

ここで参考になったのは、プロレス界であった。格闘技界に押されるプロレス界において、
“生き”がよかったのは“エンタメと言い切ってプロレスをやるハッスル”と“ガチのプロレス(つまり、総合格闘技)をやるパンクラス”であった。

これをヒントに、「エンタメと言い切ってやるオカルト」「オカルトをリアルな学問の手法で紐解く手法」の二通りのスタイルを構築した。
前者はハッスルをオカルトに置き換えたものであり、現在筆者が東京スポーツやリアルスポーツ、コアマガジン、リイド社、河出書房や、TVのバラエティー番組で展開しているスタイルである。(このスタイルだけを俎上にあげ、筆者をエンタメ作家と単純に判断する者がいるが、大きな誤解である)

また、後者のスタイルを確立するために、仕事の合間に放送大学院(政府が社会人向けに設立した正規の大学院であり、学位商法の大学院から学位を買う有名人と一緒にされては困る)に通い修士号を取得した。
これは毎年年末に放送される「ビートたけしの超常現象Xファイル」にて、大槻教授にシュートマッチを仕掛けるためのディベート、学問的思考の準備トレーニングであった。その成果は、昨年末に放送され、大きな波紋を呼んだ。

この学問的手法でオカルトを紐解くという模索は、筆者の「インターネット時代における異界観」という修士論文にて結実している。また、商業ベースの出版物の中でも、リイド社「怪異証言」、マガジンランド「学校裏怪談」「異界神話」などにおいて、民俗学のフィールドワークの手法を採用し怪談を収集、実験的に商業出版と学問的手法の合体を行っている。
今後、妖怪は民俗学、幽霊は心理学や大脳生理学、UFOは物理学や心理学、UMAは生物学や文化人類学でアプローチしていくつもりだ。もはや、このような手法でしか、崩壊したオカルトのリアリティは復興できないのだ。筆者の本を数冊熟読したことのある読者なら、時々見せるシュートぶりを理解してくれているはずである。
このオカルトへの新しいスタイルと、コンビニの書棚にオカルト本を並べるという発想により、筆者はこの不況を生き残った。だが、せっかく見つけたオカルト本の新たな新天地・コンビニ書棚も、各社が進出し、共食いの状況となりつつある。

それでも筆者はくたばらない。「音声配信の怪談」「心霊や廃墟の映像配信」「スピリチュアル番組の製作」など新たな境地を幾つか構築しつつある。また、編集プロダクションと連動した展開として、作家やライターをタレントとしてマネージメントしていく「作家プロダクション」も昨年立ち上げた。

オカルト戦国時代はまだまだ続くだろう。
だが、乱世だからこそ、オカルト作家は完全燃焼できるのだ。

―――死に物狂いで新しい局面を開く、それがプロのオカルト作家なのだ。




山口敏太郎



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