●更新日 01/19●


プールの中から


具体的な名称は伏せさせて頂くが、九州の某所に霊の出るプールがある。泳いでいると子供の霊が出るというのだ。



「地元じゃ、有名な話ですよ」
この話をしてくれた主婦の飯田さんは、中学の時、そのプールに行った。昭和の末期の頃である。

「おかしいなぁ」
友達数人と泳ぎに行ったのだが、泳いでいるといつしか友人とはぐれ一人ぼっちになってしまった。
「みんな、どこ行ったのかな」

不安げにプールサイドに座っていたものの、泳いでいるうちに再会できるだろうと思い、一人でプールに入って泳いでいた。

水中にもぐり、当時オリンピックの鈴木大地選手の活躍の影響で流行っていたバサロという泳法の真似をしていると…。
――同じように水中を泳ぐ子供の姿があった。

小学生の低学年ぐらいの男の子でかわいい顔で微笑んでいる。そして、こっちにおいでと手招きするのだ。
(なにかしら、おもしろそうな子ね)

相手が子供である為か油断した飯田さんが、子供の方に泳いでいくと突如子供の顔が恐ろしい表情になって、ぐっと腕を掴んだ。
(やっ やめてよ、この子、何するの)

だが、その男の子は子供とは思えないもの凄い力で腕を掴んで離さない。
(この子、変だ、何か変!)

もがく飯田さん、だがその子はもの凄い力で彼女を引っ張っていく。
(やばいって、もう息がやばいって)

しかも、排水溝の方に飯田さんの腕を持って引っ張っていこうとする。
(あそこにいったら死んでしまう)

半狂乱になった彼女は必死に腕を振り払い、水中から飛び出した。
「なんだったの、あの子」

バスタオルを肩にかけガタガタ震えていると、友人たちがやってきた。
「どうしたの?顔色が真っ青よ」

たった今、経験した恐怖の事件を説明すると仲間の一人がこう教えてくれた。
「思い当たるような事故を聞いたことがあるよ、このプールで昔死んだ人がおったらしいよ、排水溝に吸い込まれて水死したらしくて、プールの水抜くまで発見されんかったらしいわ」

因みに友人の話によると、その後その子供の霊は、度々水中で人に悪戯をすると言われているそうだ。
「あんたたちがあたしを放っていくからよ」

結局、ふてくされたまま飯田さんは、友人たちと記念撮影をしてプールから帰宅した。数日後、写真を現像した彼女たちは騒然となった。記念撮影の背景になったプールのあがり台のところで、

小さな片手が今にも陸にあがらんとばかりに、ぎゅっと台を握り締めていたのだ。


山口敏太郎



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