林に囲まれた古い家は、昼だと言うのに薄暗く、不気味な雰囲気だった。扉を叩くと、
優しそうなおばあさんが出てきた。美幸の祖母らしい。女性調査員、原井理久子は、
「美幸さんとは高校の同級生だったんです。」と挨拶した。
 おばあさんは、孫の友達が来たと、たいそう喜んで、位牌のある部屋へ通してくれた。
そこには、仏壇のそばに美幸の遺影がかかげられていた。歌手の川越美和にそっくりで、
可愛くて愛くるしい女性だ。
 おばあさんは、彼女の死因が自殺だったことを告白し、いきさつを話してくれた。
その口調から、孫の恨みを晴らしたいという気持ちが感じられる。
 夫の剛(二十六歳)は、女が出来てから、美幸の待つマンションに帰らなくなった。
美幸は一年間ものあいだ悩み苦しんだあげく、ある日、剛と浮気相手の女が住む
コ−ポの裏に車をとめた。
 玄関のドアを叩いたが、居留守をつかって出てこない。あきらめて車に戻ると、
あらかじめ用意していたカッタ−ナイフで深く手首を切った。それが致命傷となったのだ。
 ためらい傷はなく、覚悟の自殺だった。
 彼女は消えゆく意識の中で、自分の血を使ってサイドウィンド−に文字を書いた。