「つよし、呪う」と・・・・・。
 死体は翌朝、近所の住民が発見し、車の周りはやじうまでいっぱいになった。
 傷の痛みに苦しんだのか、ハンドルを強く握り締めており、死後硬直のための爪の先が、ハンドルに食い込んでいた。鑑識課員が彼女の手を外そうとしたとき、人指し指と中指の爪がもぎ取れてしまったほどである。
 髪の毛も、掻き毟って引き抜いたあとがあり、何十本と後部座席に抜け落ちていた。
 おばあさんはその束を警察署員からもらい、大切にしまってあると言う。
 死ぬ覚悟は決めていても、死にいたる恐怖はそうとうなものだったに違いない。その他にも、断末魔の痕跡は車のあちこちに残されていた。
 剛は外の騒ぎを聞き、窓から様子を覗いて愕然となった。目の前で妻の死体が担架に乗せられるところだったのだ。
 その後、剛は、周囲の冷たい目が耐えられなくなり、愛人を残して実家に戻った。以後の消息は、おばあさんも知らないと言う。