数日が経ち(それもやはり、とても寒い日夜だったと覚えています)、鏡に向かって髪をとかしていたときのことです。 ぼんやりと、鏡に映る部屋を見回していたところ、不意に視界のすみを、白いかたまりが横切ったのです。 さっとかすめる程度の影でした。
思わず振り返りましたが、そこにはなにもありません。

その時です。

何かに乱暴に後頭部の髪をつかまれ、ぐいぐいと鏡の方へ引っ張られたのです。
喉がまるで石化したかのようで、声が出ませんでした。 床に手をついて耐えようとしましたが、到底かなうものではありません。
無意識のうちに、手に持っていたブラシを、頭の後ろにふりかざしました。
何の手応えもありませんでしたが、すっと力が抜け、私はその場に投げ出されました。
恐る恐る振り返ると……そこには、やはり鏡があるだけでした。