「どうして」

聞き覚えのない氷のような声に、全身が粟立ち、手を引っ込めようとしましたが、びくりともしません。

「ねえ、どうして」

閉めていたはずのカーテンがなぜか開いており、月明かりが差し込んできています。
そちらを見てはいけない、と思いながら、首は勝手にそちらに振り向くのです。

窓にぴったりとくっついて、こちらをのぞきこんでいる女がいました。
青すぎる顔色に、髪を振り乱し、血走ったまなざしで私を見下ろしているのです。
ここは2階です。ベランダもありません。


窓にはもう一つの光景も映っていました。
いま、ちょうど私が寝ているあたりの場所に、木製の高級そうなベッドが据え付けてあり、その上で一組の男女が絡みあっているのです。
女は組み敷かれ、必死に抵抗している風でした。
男のほうは馬乗りになり、女の髪をつかみ……高く包丁を掲げ、それを何度も、振り下ろしていました。