二年前の出来事だ。友人が夜中に電話で号泣しながらこう言った。
「どうしよう、私、自分の赤ちゃん殺しちゃった。」
急いでタクシーで駆けつけた私が見たのは、下腹部から血をたらしたままで泣く友人と、その手には小さなティッシュで何かを包んだようなもの。
テーブルの上には聞いたことの無い薬の箱が。
ネオ・メスチンA錠。
表向きには通径剤(生理不順を正す薬)だがこの薬には裏の効能がある。
用法・用量の欄には一回4~5錠、一日三回食間に服用すると書いてあるが、これを一回12錠、一日三回空腹時に服用を三日間繰り返す事によって
子供をおろす事ができる。
この効能は非合法なもので、生理予定日から一週間以内なら堕胎に成功する可能性があるという。
もちろん個人によって効き方が異なるので、
完全におろせる保障は全く無い。
それでもたった12600円で購入でき、副作用も、酷い腹痛と下痢以外に何も確認されていない(正確なデータが無い)事から、裏の世界では名の知れた堕胎薬なのである。
しかも中国製ではなく、あの日新製薬が作っている日本製の薬である事が驚きである。
友人には、頼れる両親が居なかった。子供をおろすお金も無かった。父親である男には逃げられ、自分も子を育てる自信も、経済力も無かった。
そんな時、この薬の存在に出会い、彼女は一人で決意した。
失敗したら自分の身体がどうなるか分からない、そんな心配より、
望まない子供を自分が生んでしまう事の方が怖かった。
薬を飲み始めて三日目、彼女がトイレに行った時、ヌルッとした感触と共に血の塊のようなものが膣から出てきた。
彼女の握り締めていたティッシュの中には、その時出てきた塊のようなものが包まれていた。
実物の写真(友人提供)。かろうじて人の形をしているように見える。
それこそが彼女の殺した自身の子供だったのだ。
後に彼女は言う。
あの薬が無ければ私は絶望で子供と一緒に死んでいたかもしれない。
私にとっては天使のくれた救いの薬だったけど、赤ちゃんにとったら命を奪う悪魔の薬だったわけだね。
子供をおろす事は、どんな理由があっても正当化できる事ではない。
でも、今年結婚して子供が出来た私の兄嫁の出産祝いに立ち会った時、
可愛いですね。本当に、可愛いですね。幸せな子供にしてあげて下さいね。
と涙を流しながら言った彼女を、誰も責める事は出来ないのではないかと思った。
ミネ