自己反省を込めて強く主張したいことがあります。この選挙戦の間ずっと野党と一部メディアは、政治資金問題を起こした自民党議員を“裏金議員”と呼んで非難していますが、それは事実を歪めた表現、不正を働いたというレッテル貼りだということです。
“裏金”の定義
そもそも広辞苑によると、“裏金”とは「公式の帳簿に記載しない、自由に使えるように不正に蓄えた金銭」を意味します。それでは、派閥のパーティ券収入のキックバックを受けた旧安倍派・二階派の議員のうち、この定義に該当する人はどれ位いるでしょうか。
検察の捜査と自民党の内部調査からは、私的流用や不正蓄財は見つかっておらず、政治資金収支報告書への不記載だけが判明しています。つまり、現在分かっている事実からは、“裏金議員”の多くの実際の行動は裏金の定義には該当せず、不記載のみが咎められるべきなのです。
もちろん自民党の内部調査は不十分です。だからこそ、岸田政権は個々の議員を精査し、政治資金収支報告書を修正しても使途不明金が多いなど、私的流用や不正蓄財が疑われる議員を明確にして処罰すべきでした。
しかし、岸田前首相は、不記載の金額が大きい議員ほど厳しく処分する一方、他派閥の不記載は“事務的なミス”で済ませたため、裏金の疑いがある不記載は悪質で、金額が大きいほどタチが悪いという印象を強めてしまいました。石破政権での非公認や比例重複禁止の扱いもそれを増幅した感があります。政権の間違った対応が、仲間であるはずの議員を疑惑の対象にしてしまったのです。
新聞6紙のうち“裏金議員”という表現を使うのは3紙だけ
その結果、例えば東京24区で立候補している萩生田光一氏のように、政治資金収支報告書の修正内容や記者会見から“裏金の疑い”はない(私的流用や不正蓄財がない)のが明らかなのに、単に不記載の金額が大きかっただけで自民党からは非公認とされ、野党やメディア・ネット上からは“裏金議員”とレッテル貼りされ叩かれ続けている候補者も多いのです。
これはあまりにアンフェアな選挙戦ではないでしょうか。萩生田氏が“裏金議員”ならば、不記載が発覚した岸田派や石破派、更には野党議員で時折発覚する不記載も、事務的なミスではなく同様に裏金と非難されるべきです。
ちなみに、新聞の一般紙6紙のうち、“裏金議員”という表現を使っている新聞は3紙だけです。残りの3紙は“不記載議員”(政治資金収支報告書に不記載のあった議員)という表現を使っています。どうしてこういう違いが起きているかが全てを物語っていると思います。
投票する際にこうした悪意あるレッテル貼りの印象だけで投票先を決めることのないよう、注意すべきではないかと思います。
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岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。