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誰かに盗られるくらいならあなたを殺していいですか?

紅白歌合戦で定番の石川さゆりの『天城越え』の歌詞で「誰かに盗られるぐらいならあなたを殺していいですか」と訴える気性の激しい女性にはモデルがいます。その女性の嫉妬深さは一夫多妻が当然だった鎌倉時代としては異例でした。

ここで女性の皆さまにちょっと言い訳させてください。当時の貴族や有力武家は複数の妻妾の家に通うのが一般的でした。一族の繁栄のために世継ぎを作るのが使命だったのです。不倫というより、一族トップの義務でした。しかし、この歌のモデルである北条政子は容認しませんでした。

北条政子の夫である源頼朝は、正妻・政子の妊娠中に亀の前という妾を寵愛するようになりました。これを知った政子は激怒しました。亀の前が住んでいた伏見広綱の邸を襲撃させて打ち壊し、亀の前はほうほうの体で逃げ出したそうです。政子の怒りは収まらず、亀の前を住まわせていた伏見広綱を遠江国への流刑に処しました。

頼朝はその後も義務を果たすべく、せっせと他の女性と通じましたが、政子を恐れて半ば隠れるように通っていたそうです。しかし、殺されることはありませんでした。その点は、幸いでした。

 

昭和11年、ご存知の方も多いと思いますが阿部定という女性が愛人を殺しました。動機は『天城越え』の歌詞そのもので、「好きでたまらないから、殺してしまえば、他の女が指一本触れられなくなりますから」と告白しています。この愛のお話は、『愛のコリーダ』(1976年/大島渚監督)をはじめとした映画やテレビドラマなどで語り継がれています。
2024年にTBSのテレビドラマ『不適切にもほどがある!』に主演して話題になった阿部サダヲは、本名が阿部なので阿部定事件にちなんで『阿部定を』を芸名として、「定を」をカタカナにしてサダヲにしました。ベテランテレビマンから、この芸名が「最も不適切」と言われたそうです。

 

さて、ここから現代の実際にあった裁判です。

・Xは、高校を卒業後、会計事務所で働きながら、夜はスナックでアルバイトをしていた。

・Xは昭和51年、27歳のときに結婚したが、夫の女性問題が原因で2年後に離婚した。

・Xは神奈川県でホステスとして働くようになり、客のYと知り合った。

・Yには妻子がいたが、昭和58年に離婚が成立、昭和60年にXとYは結婚した。

・平成元年5月、Yは勤務先の若い女性と浮気を始めた。

・XはYとの愛の復活を願い、沖縄旅行に誘った。二人は、初夏の沖縄を楽しんだ。

・しかし、Xには「踏んだり蹴ったり」が待っていた。二人が練馬のマンションに戻ると、部屋は散らかり放題だった。Xがスナックの同僚女性に留守を頼んでいたのだ。その女性から電話が入り、勝手にYの車を乗り回して事故を起こしたという。

・Yは激怒した。「お前があんなバカ女に頼んだりしたからだ!」。

・そこへ、再び電話が鳴った。Yの不倫相手の女からだった。電話を切るや、Yは鬼の形相でXに詰め寄った。「お前! 会社に電話して、俺と彼女のことを聞いて回ったのか! もう、お前とは同じ布団では寝ない」。そう言い捨てて、Yは一人で寝室で寝てしまった。

・Xは絶望し、大量の鎮静薬をブランデーで流し込んだ。このまま死んでしまおうと思いながら、楽しかった沖縄旅行の写真を眺めた。心に浮かんだのは「いっそ、愛する夫も道連れに」であった。

・Xは台所にあった包丁を手にした。そして殺人罪で逮捕された。

 

裁判所は、Xの「この夜の、踏んだり蹴ったりには同情の余地がある」としました。もしも、

・留守を頼んだ同僚が部屋を荒らしていなければ

・車を乗り回していなければ

・不倫相手からの暴露の電話がなければ

 

裁判所はXに懲役6年を言い渡しました。(平成2年9月7日 東京地裁)殺人罪にしては短い量刑といえそうです。これは、愛が生んだ事件です。愛の反対語は憎しみではなく無関心です。無関心ならこのような悲劇は起こらなかったでしょう。愛という凶器の取り扱いにはちょっと慎重さが必要なようです。

 

愛は慎重に。証拠収集のご相談はガルエージェンシーへ。

 

探偵船引

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