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大学の非常勤講師、法律改正後も「無期雇用」に転換できない?そのカラクリ

有期雇用の人々の「雇い止め」問題が各所で発覚して、メディアでも盛んに報じられたことを覚えているだろうか。その後、2013年に労働契約法が改正された。それから5年が経過した2018年は、節目の年となった。2013年以降、5年以上にわたって契約更新してきた人々は、無期雇用への転換の申請が可能となったからだ。

大学の非常勤講師の扱いも雇い止め問題の主要な論点の一つとなったが、他の職種とは異なる特殊な事情がある。大学の教員や研究者等に関しては、無期雇用への転換の申請を可能とする期間を、雇用開始から「5年」ではなく「10年」とすることが、法律で認められている。

 

 

このたび当サイトに情報が寄せられたのは、東京大学での非常勤講師の扱いに関する問題だ。情報提供者は、同大で非常勤講師を務めてきた人物だ。昨年、翌年度より非常勤講師の扱いに変更が生じ得ることが、書面で示された。従来の契約形態は「委嘱」だったが、これを「雇用」に変更することが可能であるという内容だ。

 

 

ところが、「雇用」に改めることにメリットがある人は限られているのではないかと、情報提供者は指摘する。特に注目したいのは、無期雇用への転換の申請条件だ。先述の理由から、申請が可能となるのは、契約期間が2013年から数えて「10年」を超える場合となっている。つまり、現段階ではこれに該当する人は、まだ存在しない。

問題は、「セメスターのみの雇用期間は6ヶ月以上雇用されていない期間が発生するため、無期転換申込権は発生しません」という説明だ。セメスター制(2学期制)で、いずれかの学期のみ雇用されている人は、契約終了日から翌年度の契約開始日までに半年以上空いている。この空白期間を、「クーリング期間」と呼ぶ。

 

 

クーリング期間が半年以上になると、そこでリセット扱いとなる。したがって、前年度からの契約の継続性は失われてしまう。「要するに、年間を通して非常勤講師を務めている人でなければ、無期雇用には転換できないということです」。「委嘱」では不可能だった雇用保険や社会保険への加入も、「週20時間以上の勤務」などの条件が設定されている。

 

 

しかも、これらの点が、従来は報じられなかったというのだ。一例が、「現代ビジネス」の2017年12月14日の記事だ。「東京大学では非常勤教職員8000人と非常勤講師3000人のあわせて1万1000人に、無期雇用への転換の道がひらけた」と書いている。年間を通じての契約でなければ無期雇用に転換できないことには、言及がない。

「赤旗」は2017年10月17日の記事で、東大が「非常勤講師を労働者と認めず業務請負契約にしていたことを是正し、過去にさかのぼって雇用計画に切り替える」と報じた。「これにより約3000人の雇用契約が改善されることになります」と記しているが、情報提供者が指摘した点には全く触れていない。

 

 

当サイトでは、首都圏大学非常勤講師組合に話を聞いた。情報提供者が提起した論点に関しては、把握しているという。これらの点は問題であると考え、その是正を求めているそうだ。1年のうち1学期間のみ講義を担当する非常勤講師も、年間を通じて雇用関係が継続していると見なし、無期雇用への転換の申請を可能とすることを要求している。

講義を担当する期間は学期中に限られるとしても、その前後に講義の準備や採点などに多くの時間を費やしているという実態を考慮してほしいと、大学側に要請したという。2019年1月4日の時点で、回答待ちの状態であり、近日中に大学側からの見解が示される予定であるとのことだった。

組合の担当者曰く、現代ビジネスや赤旗が非常勤講師の雇用に関する問題を報じた2017年後半の段階では、情報提供者が指摘した問題について、組合でも把握できていなかったという。とはいえ、その後、各メディアが当該の問題を自ら調べ、あるいは組合等に取材し、その実態を報じた形跡はない。

情報提供者は言う、「年間を通じて講義を担当できるかどうかというのは、大学のカリキュラムに左右される部分も大きく、講師の側に選択の余地は少ないです。無期雇用への転換に申請できる人と、ずっとその大学で教えているのに1学期間の勤務であるという理由だけでいつまでも申請できない人、この『格差』は理不尽ではないかと思います」。

 

高橋 

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