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追悼:日本文学者ドナルド・キーンさん 知人が語る、心温まる珍エピソード

2019年2月24日、日本文学研究者のドナルド・キーンさん(コロンビア大学名誉教授)が96歳で死去した。川端康成や三島由紀夫をはじめ、国内の多くの作家との深い交流があったことで知られる。日本の文学作品の研究や海外への紹介等での多大な貢献により、これまでに各賞を受賞し、2008年には文化勲章も受章した。

 

 

東日本大震災後には日本国籍を取得して、「鬼怒鳴門(キーン・ドナルド)」と名乗った。そんなキーンさんにとって、お気に入りの場所の一つになったのが旧古河庭園(東京都北区)だった。庭園の美しい風景を見渡すことができる隣接のマンションでの生活を始めたのは、1970年代のことだ。

 

 

それ以来、庭園の周辺の散歩がキーンさんの日課になった。キーンさんと同じマンションに住んでいた人物(以下、「Aさん」と記載)によると、マンションの住民だけでなく近隣の人々とも気さくに会話していたというキーンさん。人々からは「キーンさん」、「キーン先生」と呼ばれていたという。

 

 

「近所を散歩しているキーン先生に、よくお会いしました」。多忙なキーンさんだが、外出時はいつも家族が同伴していたそうだ。ちなみに、キーンさんの散歩コースの途中には、川端康成が愛した老舗のケーキ店もあったという。その店は、「近年、惜しまれつつ閉店しました」とのことだ。

 

 

ある時、キーンさんが親しい人々を集めてパーティーを開催することになった。それに招かれた一人が、同じマンションに住んでいてAさんとも交流があった男性(以下、「Bさん」と記載)だった。今回、Bさんへの取材はかなわなかったが、キーンさんと周囲の人々との心温まる珍エピソードをAさんが語ってくれた。

パーティーの出席者は研究者や出版関係者、大使館関係者など多岐にわたり、30名ほどだったという。その中には、外国人も多かった。Bさんは、外国人にも喜んでもらえるのではないかと考えて、きれいな和菓子を差し入れとして持参した。案の定、パーティーに出席した人々は和菓子の美しさに魅了され、大喜びだった。

ところが、ここで予想外の事態が発生した。大使館の関係者たちは和菓子の美しさと味に感動して、「きれいだ」、「おいしい」と連呼しながら、一人でいくつも食べ始めたという。その結果、あっという間に一部の人々によって和菓子は食べつくされてしまったのだ。

Bさんは出席予定人数の倍以上の個数の和菓子を差し入れしたのだが、途中からパーティーに来た人たちは和菓子を見ることもできず、がっかりしていたという。この光景に、キーンさんも苦笑していたとか。しかも、この話には続きがある。後日、パーティーでの珍事をBさんがAさんに伝えた。

それを聞いたAさんは驚いた。なぜなら、「キーン先生は、和菓子が苦手なんですよ」。キーンさんは甘党だったが、好物は洋菓子だったそうだ。Bさんは、そのことを知らずに和菓子を差し入れしたのだ。「外国人の人たちも喜んでくれて、よかった」とうれしそうに語るBさんだったが、Aさんは「真相」を告げることはできなかった。

近隣の人々に愛されていたキーンさんだが、Aさん曰く、「実は、日本国籍の取得が大きく報道された時に、キーン先生が偉大な研究者であることを初めて知ったという近所の人たちもいました」。キーンさんが行きつけだった、ある店の女性は、それまで「小柄な外国人のおじいちゃん」としてしか認識していなかったという。

 

 

「私も最初はキーン先生が大学の先生とは知らなくて、知った時にはびっくりでした」とAさんは告白した。これらのエピソードは、キーンさんが近隣の人々に、いかにフレンドリーに接していたのかということを物語っているのではないだろうか。Aさんの話を聞き、生前のキーンさんに一度は会ってみたかったと思わずにはいられない。

 

高橋 

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