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実体験の怪談 


僕は福岡県の片田舎で育った。田舎の遊びは自然が多い。もしくはイオンモール。本当にそれしかない。まあ、テレビゲームとかもあったけど。

僕は祖父や祖母とも同居していたので、祖父の犬の散歩に一緒についていくこともよくあった。山が近くにあったので散歩のルートはいつも山登りになる。祖父は結構な年齢なのに背筋も全く曲がっておらず健康そのものだった。

祖父は毎夕、柴犬のジュンと一緒に山中にある大きな神社まで山道を通って散歩をしていた。僕は週に何度か祖父とジュンの散歩に付き合わされた。その道中はずっとジュンの先導で登り続ける。広い山中で放っておいても何百メートルも離れた場所から祖父を見つけて戻ってくる。鼻も眼も耳もいい犬だ。実際、祖父の罠猟にも同行していた。

いつも登っているその山は山道が3つあり、アスファルトで整備された車用の道路、何百年も前に作られた石段の正式な山道、そして地元民でも限られた人間しか使わない忘れられた山道だ。僕の祖父はいつも忘れられた山道でジュンの散歩に行っていた。急勾配で不気味な山道だ。

山の中腹には割と有名で大きな神社があった。有名ともなればそれだけ変な話も付きまとう。親からも地元の先輩や友達、親戚のおじさんからも聞かされた。実際、やたらと交通事故が起きる魔のカーブや、首無しライダーやら、気が狂って焼身自殺した神主の話やら、一晩で山の周りを一周する岩を並べた鬼の話やら、てんこ盛りだった。ちなみに、正式な山道のほうには本当に鬼が並べたとされる岩の並びがある。

祖父とジュンの山登りの山道は、整備されていないせいか木々が好き放題に伸びていつも薄暗く湿っぽかった。その道中に奇妙なスポットがあった。山道をそれた小道に入ると開けた小さな土地があり、その真ん中を陣取るように大きな木がぽつんと立っていた。根元にいくつかの花束が添えられた木。

誰かがそこで自殺したのだろうか。

小学生の僕はそっちの方向を見ないように、近くを通るときは顔を伏せて通った。
その木の周りだけやたら明るく、神々しい雰囲気すらあった。

その日は前日の夜に雨が降り、道はまだ湿ったまま。いつもの山道をジュンがぐいぐいと進んでいく。祖父は疲れた様子で休んでいる。

「じいちゃーん、ジュンがどっか行ったー。」

心配するが、祖父はどこ吹く風。

「心配せんでよかろ。ジュンは放たっとってもいつも帰ってこようが。ちょっと休憩ばせんか。」

しかし、祖父の発言とは裏腹に数分ほどしてもジュンは帰ってこない。待ちぼうけていると遠くのほうでジュンの鳴き声が聞こえた。僕は一目散に駆け出し鳴き声のする方向へと向かう。

「ウロチョロせんとやぞー。」

急ぐ僕の背中に祖父の声が響いた。ジュンの鳴き声のする方向へ進むと例の木がある小道へと続いている。ジュンはあの場所にいるのだ。行きたくなかった。しかし、ジュンの様子がおかしい。いつもは大人しいのに今までに聞いたことがないほどの声量で吠えている。

ジュンは木に向かって噛みつく勢いで吠えていた。

「ジュン!なんしよっと!?行くよ!」

問いかけにも振り向かず、ジュンは歯をむき出して吠える。次第にジュンは、吠え続けながらこちらに向かって後ずさりしてきた。ジュンには何かが見えている。間合いを取るように動き回り吠える。

ジュンにリードを付けようと近づいたその時、僕は足元の濡れた枯葉で足を滑らせた。直感が告げる。何かいる!危ない、早く逃げろと。

必死に立ち上がろうとするが、焦って立ち上がれない。なにかに吠え続けるジュン。ジワジワと後ずさりする。何かが近づいてくる。見えない何かが。

ジュンは突然走り出し、山を一目散に下って行った。置いて行かれた…。僕は目をつむる。見たくなかったのだ。恐怖が近づいてくるのが分かった。女性の声だ。

「助けて」

目を開けてしまった。目の前、僅か数センチ。首だけの、白い顔…直後、気を失った。
目を開けた時にはジュンに顔を舐められていた。

「大丈夫ね?何があったとや?」

祖父の心配そうな顔。

「首になんかあざが出来とるぞ。」

帰ってから鏡で首を見てみると、首に横一本だけのあざが薄く表れていた。

それ以来、散歩にその山道を使うことはなくなった。

結局あれは何だったのだろうか。知り合いに聞いたりもしたが、あの場所の事情を知る人は周りには一人もおらず、その時は分からず仕舞いに。BOZZに今度帰郷した時に調べてこいと言われた。嫌だけど行ってみるか。

 

ガル大阪本部  NAKANO

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