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妻は元国会議員  ~「嘱託殺人罪」の被告人・大久保愉一医師の元妻

2019年11月、難病からの回復が難しく生きる希望を失ってしまった女性の依頼を受け、知人の元医師と共に女性を殺害し「嘱託殺人罪」に問われている大久保愉一医師。

検察側は大久保被告人のことを医療行為に見せかけた「嘱託殺人」に強い関心を持った人物であると主張しています。その反対に、生きる望みを失った人に「生き続けること」を強制することは憲法13条違反であると訴える弁護側は、女性の望みを引き受けた大久保被告人に「嘱託殺人」を適用することは不可能として無罪を主張しています。双方が真正面から対立するほど「尊厳死」と「嘱託殺人」の問題は社会、人権、生命、倫理に係る難解な問題です。

「死」を選択することもまた人権として認めるべきだという主張を私は全面的に否定する術を持ちません。しかしこの難解な問題の是非は改めて別稿で論じるものとして、今日からのシリーズで扱うのは大久保被告人の元妻、三代さんについてです。筆者と三代さんは、共に同じ政党での政治家経験を持ち女性議員としての苦労を分かち合う仲間であり、そして同じ研究所で研究を共にしたライバルでもあります。

三代さんの出身地は大分県です。彼女が政治家を志したのは25歳のときでした。故郷のコミュニティ不足や過疎化の問題に直面したことから政治問題に対する意識を高めた彼女は、故郷である大分県で立候補することを強く望みました。三代さんは実際に、自民党の大分県連が実施した候補者公募に3度も応募しています。しかし公募に合格したのは、すでに人脈や金脈をもつ世襲であったり有力者の息子であったりと、「女性が出る幕はなかった」と言います。

結局、故郷での立候補は叶いませんでしたが、その後も立候補を模索し続け、5回目の挑戦でようやく手に入れたのが大久保被告人の故郷である宮城県石巻市(宮城5区)での立候補でした。当時、彼がこの選挙区内の某病院に勤務していたことから、宮城県に嫁いできた「医師の妻」という立場によって立候補をすることになりました。三代さんが当選し国会議員になったのが2012年。そのわずか8年後の2020年7月には、「嘱託殺人」容疑で逮捕された医師の妻という立場に立つとは、想像すらしていなかったことでしょう。

このシリーズでは、三代さんが大久保医師と結婚をし、夫の故郷である宮城県石巻市で立候補をする決意を固め、そして研究職から政治家に転身するまでの人生と、一転して被告人の妻となり、離婚を決意し、シングルマザーとして生きる決断を下して現在に至るまでの人生を、数回に分けてお伝えしていきます。



三代さんは独創的な人柄で誤解を受けることも少なくありません。しかし、なぜ彼女が政治家を目指し、政党でどのような壁にぶつかり、どうして政治家を諦めたのか。その後、突如として「嘱託殺人」に問われた夫の妻となったときに彼女の人生はどうなったのか、ふたりのお子さんを持つシングルマザーとして生きる決意を固め、今はどうしておられるのか。これらに焦点を当てた記事は皆無ですので、三代さんの数奇な人生を友人である私の視点から捉えていきたいと思います。

振り返ると、三代さんに最初にオンラインでインタビューをしたのは2020年5月。
夫が逮捕される直前でした。次回は、三代さんが立候補のチャンスを手に入れるまでの道のりについて書いていきたいと思います。
お楽しみに。

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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