与野党間での政治改革の議論で、企業・団体献金が最大の焦点になった感があります。自民党は継続を主張するのに対し、立憲民主党を筆頭に野党の多くが禁止を叫んでいますが、本当に企業・団体献金は悪なのでしょうか。
立憲民主党の主張は論外
企業・団体献金の禁止を一番強く主張しているのは立憲民主党ですが、その主張は筋が悪いと言わざるを得ません。支持母体である労働組合が設立した政治団体からの寄付はOKとしているからです。
これでは、真面目な政治改革というより、自らの資金源は確保しつつ自民党の資金源を細らせたいという党利党略の方が優先しているとしか思えません。企業の労使関係の観点から考えても、“労”の側は政治献金できるけど“使”の側はできないというのは、不合理な差別とも言えます。
企業・団体献金は禁止すべきではない
ちなみに、私は企業・団体献金は禁止すべきでないと考えています。その理由は、自民党が主張する企業の政治活動の自由という点もありますが、それ以上に重要なのは、地域の経済社会の最大の担い手は地元の中小企業という現実です。その中小企業の政治参加を否定したら、政治家は地元の声を十分に政策に反映できなくなるからです。
かつ、企業・団体献金を禁止して個人献金だけにしたら、先代から支持者を引き継げる世襲の政治家が有利になり、政治と無縁だった人ほど政治家になりにくくなる面もあります。個人の支持者からの献金の獲得は本当に大変だからです。世襲でないけど志ある人が政治家になれるようにするためには、そうした人を応援してくれる地元の中小企業の献金が必要なのです。
献金の主体より献金の上限額を議論すべき
もちろん、だからと言って、今のままの企業・団体献金を続けるべきではありません。大企業や経済団体による巨額の献金が政策を歪めている面は否定できないからです。その原因は、現行制度上、企業・団体の政治献金は上限1億円まで(資本金の額に応じて)と巨額の献金が認められているからです。
そう考えると、献金の主体(個人だけか、企業・団体も認めるか)を議論するよりも、企業・団体の献金の上限額を思い切り引き下げる議論をした方が、政治改革としては意味があるはずです。
よく考えたら、企業・団体献金は今回の政治資金疑惑とは関係のない話題です。それが最大のテーマになったのは、企業・団体献金の9割を集める自民党をこの機に資金面からも弱めたいという野党の党利党略からでしょう。
しかし、結果的に政治改革の大事なテーマを進めるきっかけになったのです。与野党とも自分に都合の良いことだけを主張し続けるのか、それとも政治の将来を考えた真摯な議論を行なうのかを、よく見定める必要があると思います。もし与野党間の議論が前者に終始した場合、与野党とも国民からより一層見放されるのではないでしょうか。
岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。