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選挙の教訓から石破政権を評価すると。。。【前編】


 探偵ファイルの読者の皆さん、ご無沙汰です!長らく原稿を書かないですいません。多発性骨髄腫で体調イマイチなとこに、衆院選での知り合いの議員の応援など忙しくしていたら、本格的に体調を崩してしまいまして。。。(テレビではしょうがないから元気に振る舞っていました。)ようやく回復したので、これからまた皆様に頻繁に情報を提供できるよう頑張ります!

 

四つの選挙から学ぶべき三つの教訓

 さて、この1ヶ月の間に衆院選・米国大統領選・兵庫県知事選・名古屋市長選と、学ぶべき教訓の多い選挙が四つもありました。衆院選での惨敗後も石破総理の政権運営はイマイチなままですが、石破政権はこれらの選挙の教訓を学び、自民党の再生に向け正しい方向に動き出しているかを考えてみたいと思います。

私は、一連の選挙から学ぶべき大事な教訓が三つあると思っています。

 一つ目は、有権者の間で反エリート・反権力・反既存勢力(既存政党、マスメディア)という怒りが今まで以上に強くなったことです。

 それが最もよく現れたのは衆院選です。自民党惨敗の最大の原因は政治資金疑惑ですが、これは、庶民は高い税金をきっちり取られるのに、国会議員という特権階級は裏金でズルをしていたという怒りに他なりません。米国でも、民主党は労働者の党だったのに、議員がエリート集団になったことで見放されました。兵庫県知事選でも、斎藤氏の勝利の要因は、県議会などの既得権益と一人で戦うヒーローと見なされるようになったことです。

二つ目は、これまで以上に有権者は目の前の課題への関心が大きくなり、それより次元の高い話には振り向かなくなったということです。

米国大統領選では、ハリスと民主党は、支持者の関心事項(物価高による生活苦、移民増加による治安悪化)よりも高次元な課題(人種の多様性など)ばかりを強調して、惨敗しました。衆院選でも、“日本を守る”という自民党の大上段の訴えは有権者に何も響かなかったのに対し、“手取りを増やす”という目の前の課題を訴えた国民民主党が圧勝しました。

 そして三つ目は、これが最も重要ですが、有権者が誰に投票するかを決める際、何が正しいかよりも何に共感できるかが重要になったことです。

 そもそも全ての物事には幾つかの側面があります。例えば兵庫県知事選での斎藤氏については、パワハラ・おねだり、公益通報の扱い、既得権益と戦う姿と、幾つかの側面がありました。メディアの報道やネット世論はそれぞれ違った側面を強調し、結果として兵庫県民は既得権益と戦う姿に共感したからこそ、斎藤氏が勝利したのです。

 米国大統領選でも、トランプは選挙戦の間に誹謗中傷となるメチャクチャな発言を繰り返しましたが、演説の度に“4年前より生活が良くなったか”と訴えた部分が評価されたからこそ、支持基盤である白人層以外の有色人種の得票数も大幅に増えたのです。

 そして、この三つ目の点に関連して、兵庫県知事選では“SNSがメディアを超えた”と言われることが多いですが、これは間違っていると思います。正確には、作り上げた“ナラティブ(物語)”とその刷り込みでSNSがメディアを上回ったと考えるべきではないでしょうか。

 兵庫県知事選でメディアが作ったナラティブは昔ながらの“腐敗した権力者”、ネット上で出来たナラティブは“既得権益と一人で戦うヒーロー”でした。その中で有権者は、反エリート・権力という怒りやネットのエコーチェンバー効果も作用し、後者の“エモいナラティブ”を選んだのです。

 

政治資金問題への取り組みは全然足りない

 それでは、石破政権はこれらの選挙の教訓をちゃんと学び、再生に向け正しい動きを始めつつあるでしょうか。党運営と政策立案のそれぞれで代表的な問題を例に考えてみます。

 まず党運営の面で最大の問題は、もちろん政治資金問題への対応ですが、現状では全然ダメだと思います。というのは、石破政権の今の対応は、

・政策活動費廃止などの政治改革(政治資金規正法改正)に向けた与野党協議

・不記載議員の政倫審出席と弁明を促す

・政治資金の不記載額の国庫納付か寄付

だけだからです。これで国民が納得するとは思えません。

これまでの経緯を考えれば、特に反エリート・権力の怒りが強い中では、党としての不記載議員への対応(岸田政権での処分、衆院選での非公認などの対応)が不明瞭で不十分なことが国民の怒りの根底にあるはずです。その部分への対応が政倫審出席と不記載額の国庫納付だけというのは、明らかに不十分です。

かつ、一部メディアと野党による“裏金議員”というレッテル貼りが衆院選惨敗に大きく影響したのに、その悪意あるナラティブを変える努力をしているように見受けられません。このままでは、来年の参院選でも同じ“裏金議員”というナラティブで批判され、自民党はまた惨敗しかねません。

 選挙の教訓からは、石部政権はこの二つの点への対応をしっかりと行うべきです。例えば、ちょうど石破総理は総裁選の最中、「裏金議員一人一人と向き合う」と発言していたのですから、全ての不記載議員と一対一で面談を行い、本来の意味での裏金の定義に当たる行為があったか(収支報告書不記載の金額について私的流用や不正蓄財が行われていたか)を改めて確認し、全容を明らかにすべきです。その上で、“裏金ではなく不記載が問題”というナラティブを作り上げるべきではないかと思います。

つづく

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

 

 

 

 

 

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