塾帰りの中学生2人を殺傷した平原政徳(以下、平原)が事件後1週間以内にスピード逮捕され、まずは一山を越えました。しかし犯行に及んだ動機は依然として謎であり、裁判で優位に立つためにも検察・警察が動機の解明をできるかどうかが最大の山場でしょう。そこで平原にかんする新聞・テレビ各社の報道のなかから重要と思われる3つの要因を抽出し、平原が中学生を殺傷した動機を推理してみましょう。
事件現場であるマクドナルド Google Mapより
まず、平原自身が複雑な家庭環境で育ったことが挙げられます。平原の父親は平原が中学生の頃に死んでおり、平原と妹は母方に引き取られました。子どもによっては、多感な時期に父親が不在であることによって、地方ではまだまだ根強い「男とはこうあるべき」というアイデンティティや自己肯定感を育めない可能性があり、継続した不安定な精神状態を招くことがあります。
次に、平原容疑者には離婚した妻との間に中学生の娘が2人いるという点も見逃せません。自分の娘と同年代の子どもを狙う動機にもなりうるためです。平原は娘たちと疎遠であったことから父親としての存在意義を見いだせない状況下にいました。孤立感や無力感が歪んだ形で娘と同年代の子どもに向けられ刹那的に犯行に及んだのかもしれません。
最後に、平原の生活環境は、いわゆる「ローン・オフェンダー」としての性質を兼ね備えていると言えます。「ローン・オフェンダー」とは社会的孤立や他者との結びつきの欠如が大きな原因となって社会のみならず特定の人々に対する敵意を強め、暴力行為に及ぶことです。「ローン・オフェンダー」の感情は、自分が無視されているという妄想が肥大化し他者を傷つけたくなる激しい衝動に駆られるものだそうです。平原の場合は、それが中学生に向けられた可能性があります。
起訴までは最大でも残りわずか2週間程度。今回ばかりは日本の検察の力量を国民が固唾を飲んで見ています。
女探偵 堺浄(さかい・きよら)
政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。