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ダムの底に水没する地区の住民、国土交通省の「心ない言葉」に激怒!

先頃、福島第一原発の構内にあるコンビニで販売されていた、クリアファイルが販売中止となった。原発の現在の様子などがプリントされており、3枚1組で300円だった。視察に訪れる人々などを対象に、東京電力が記念グッズとして作ったものだ。この件に関するニュースを見た読者から、当サイトに情報が寄せられた。

 

 

群馬県長野原町では、「八ッ場ダム」の完成が近づいている。情報提供者は、長年にわたってこの地域で生活してきた人物だ。福島第一原発のクリアファイル販売に対しては、「避難生活を余儀なくされている人々への配慮を欠いている」、「原発事故への反省が見られない」といった批判が相次いだ。同様の問題が、八ッ場ダム関連でも繰り返し発生してきたという。

国土交通省八ッ場ダム工事事務所は、ダム建設事業の概要や、水没予定地の歴史等を紹介することを目的に、広報センター「やんば館」を現地に建てた。やんば館は、2013年に閉館。それ以降、ダム関連の広報機能を担っているのは、新たに建設された「道の駅」内の「情報コーナー」である。やんば館の閉館に伴い、工事事務所ホームページの掲載内容も削除済みだ。

 

 

当時、やんば館の展示内容をめぐって、地元住民の一部から異論が提起されたという。問題視された内容の一つは、来場者向けのキャッチフレーズだった。そのことに関しては、当時の様子を記録した書籍にも記されている。以下は、『八ッ場ダム 足で歩いた現地ルポ』(鈴木郁子・著、明石書店・刊、287ページ)からの引用だ。

「やんば館の最初の幟旗は、水色の地に『楽しく遊びながら、八ッ場ダムのすべてがわかる』と染め抜かれていた。神経を逆なでされた水没者が『楽しく遊びながら』とは何事かと抗議。現在のあずき色の地の『もっと知ってほしい 八ッ場ダムのこと』に変わった」、「それでもまだ、同館南東に設置された案内板には、『ちょっと寄り道 楽しく新発見』とある」。

 

 

情報提供者は、この件を知って激怒し、抗議した1人だ。「あまりにも言葉が軽い。故郷がダムの底に沈むことの『痛み』を、なぜ分からないのか」。利根川の洪水対策や首都圏の渇水対策のためにダム建設が計画されて以来、地元ではその是非が争われてきた。建設が決まったからといって、故郷が水没することに誰もが納得したわけではなかったのだ。

さらに、「この本(前掲書『八ッ場ダム』)には書かれていませんが、八ッ場ダム工事事務所のホームページの内容も、住民の気持ちを考えていないということで反感を買いました」と情報提供者は明かした。やんば館の閉館に伴ってそのページが削除されるまで、記述が改められることはなかったという。

一例が、やんば館の説明として、「開けて楽しい『びっくりダム』」と書かれていた箇所だ。これは、ボックスを開けると、その中からダム関連の情報が出てくるという展示内容である。子供も楽しみながら学習できることを意識した展示なのだろうが、「楽しみながら」という部分に、住民は納得しがたかったようだ。

 

 

また、関連施設「八ッ場ダム松谷広報センター」の概要には、次のように書かれている。「愉快なキャラクターの案内でクイズを楽しんでみませんか?」、「終わった頃にはあなたもすっかりダム博士になれること請け合いです」。情報提供者曰く、「観光地としての開発を否定するわけではありません。でも、こういう表現は受け入れることができませんでした」。

 

 

ただし、八ッ場ダムの問題が複雑なのは、「国土交通省の配慮が足りない」と非難するだけでは済まないという点だ。民主党(当時)がマニフェストとして八ッ場ダムの建設中止を掲げると、ダムができることを前提に将来設計をしていた地元住民からの反発は激しかったという。その結果、ダム建設に反対する市民団体への批判も相次いだ。

『八ッ場ダム』の著者も、以下のように記している。「『あの人たちは、自分の楽しみで八ッ場に来るんだいね』と、現地のほぼ同世代の女性が放った、建設反対の市民層の一部を表した言葉である。鋭い一撃であった」、「こんなに現地の思いと運動が乖離しているのではダメだと打ちのめされた一瞬であった」(286-287ページ)。

福島の場合も、同じような傾向が見られるのではないか。原発事故も水没も、重大な「被害」である。しかし、地元の人々の立場も様々であり、また、複雑な経緯の中での「決断」として、原発やダムを受け入れたという事情もあるだろう。開発側や市民団体と、地元住民との「断絶」を埋めることは、決して容易ではない。

 

高橋 

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