扶桑社のニュースサイト「HARBOR BUSINESS Online(ハーバー・ビジネス・オンライン)」に、「安倍首相“スシ友”田﨑史郎氏が、何もしない『大学客員教授』になっていた」という記事が2019年6月3日に掲載された。このたび、当該の記事を読んだ人物から調査依頼が当サイトに寄せられた。
(1)問題提起の概要
記事は、田﨑氏の駿河台大学客員教授への着任に批判的な論調で書かれている。記事を執筆したジャーナリストの浅野健一氏が大学に尋ねた結果、「本学で科目を担当していない。授業もしていない。教壇に立つことはなく、学生との接触は全くない。本学の教育研究一般に助言をしてもらうアドバイザーだ」との回答を得たという。
https://hbol.jp/193597
田﨑氏は学生たちと一切接していないにもかかわらず、「客員教授」と名乗ることは妥当なのだろうかと、浅野氏は疑問視する。浅野氏は同志社大学の教員を務めた経験があるが、「田﨑氏のように任期の3年間で1回も講義、ゼミ(演習)や講演会もやらないというのは聞いたことがない」と書いている。
(2)さかなクンの場合は?
上記の記事に書かれていることの真偽、そして客員教授への着任の条件や主な職務を調べてほしいというのが、当サイトへの依頼だった。依頼者が事例としてリクエストしたのは、東京海洋大学の客員准教授・名誉博士の、さかなクンである。魚類の調査や研究、そして各種の教育活動などで多くの実績を誇る人物だ。
さかなクンの公式ホームページには、同大の大学祭などでの講演の記録が掲載されている。一方、同大のシラバスを調べたが、さかなクンが担当する講義は見当たらなかった。また、同大がマスコミ関係者等に配布している「研究者ガイド」を入手して確認したが、「さかなクン」としても、また本名でも、研究者一覧には掲載されていなかった。
その後の調査の結果、さかなクンの担当は学内の各種イベントでの講演や特別講義のみであること、正規の開講科目(学生が履修して単位を得られる科目)の指導には関わっていないことが判明した。だが、「さかなクンをテレビで見て、この大学を知った」という受験生も多く、大学の知名度の向上への最大の貢献者であるとの評判だ。
(3)文部科学省に聞く
さかなクンのように研究や教育で豊富な実績のある人物の場合はともかく、先述の浅野氏の問題提起については、どのように考えればよいのだろうか。当サイトでは、文部科学省の高等教育局大学振興課に話を聞いた。担当者曰く、客員としての教員の採用の可否に関する判断は、各大学に委ねているという。
文部科学省が入る中央合同庁舎第7号館
採用の可否の目安となるのは、「大学設置基準」の第14条以下に示されている内容であるとのこと。例えば教授の場合、いずれかに該当すべきとされる資格条件の一つに「専攻分野について、優れた知識及び経験を有すると認められる者」とある。教歴のない各界の著名人を客員として雇用する場合、この項目を根拠としていることが多いそうだ。
(4)まとめ
以上から、大学での講義や講演に関わる業務を担当しなくても、客員教授としての資格はないということにはならないようだ。とはいえ、「専攻分野について」の「優れた知識及び経験」という理由での採用であれば、何らかの研究や教育に携わることを想定する人も多いのではないだろうか。浅野氏の批判も、そのような感覚に基づくものと思われる。