彼女の中にはもうひとりの女性がいた。
名前は洋子。
今年のはじめに、３人の男に陵辱されてから出現した。
それから病院を転々とした。両親には何も告げずに。
ある病院で、人格の統合は成功したかのように見えた。
しかし、夜になると彼女は洋子になってしまう。
夜の道頓堀を彷徨い、道行く男に声を掛ける。
「えっちしようよ、お金はいらないから」
瞳を潤ませ、唇を舌でなめまわす。
ほとんどの男は彼女の誘いに乗った。
ごく稀に怒る男性もいて、説教されるらしい。
でも、彼女はすぐに別の男を誘う。
一ヶ月で関係を持った男は３０人。
誘った場所で性行為を行う。
路地裏、建物の陰、公園・・・。
もちろん避妊もしない。まだ妊娠には至っていない。
強姦された時に子宮を損傷したためだと彼女は言う。
翌朝、彼女は自分を取り戻す。
激しく自分を責め苛む。
だが、夜になるとその反動から洋子がまた姿を現す。
彼女と三時間ほど話した。
言葉が見つからない。
犯人に対する憎悪も無いと言い切る。
夜、洋子の出現を待つしかない。
果たして、それで止められるか。
拘束する権利もなければ、探偵として両親から正式な依頼も受けられない。
尾行して見守ったとしても、道行く男は彼女の誘いに乗り、喜んでスカートを弄るだろう。
男を何度か追い払ったところで問題は解決しない。ますますひどくなるかも知れない。
本気で助けるには、ずっと一緒にいるしかないのだ。一緒に向かい合うしか。
それができないのなら・・・。
ー ＢＯＳＳ ー