私は彼女が発信する大量の自傷メールに対して、何の返信もしなかった。人格障害は話を聞けば聞くほど病状が悪化する場合が多いからだ。
朝、一通のメールが来た。 4,23 am7:25
おはようございます。初めまして、瑞穂と申します。昨日の夜、えみは不安にかられて紐を用意してしまったところで私と代わってしまったみたいです。幸い手首の傷は血が止まり、リストバンドで隠しています。かおりの代わりに私がレイプした男の、数少ないですが情報を思いだし伝えたいと思います。名前はゆ●●ちと呼ばれていて(以下略)
リーダー(第3の人格)が姿を現した。そして、自傷をしている第4の人格の存在をほのめかせた。私は「あなたが統率されているのですね?」と尋ねた。瑞穂は肯定した上で、レイプによって多数の人格が生まれた経緯を話し出した。
かおり (本人:私と接触した美少女)
洋子 (男と性行為を繰り返す人格)
瑞穂 (一番年上で他の人格のリーダー)
えみ (自殺願望の人格)
普通、リーダーはなかなか姿を現さない。現に病院では二人(かおりとえみ)の統合だけを試みて失敗していた。
なぜ、リーダーがいきなり出現したのか、このメールを読んでいただきたい。
真夜中のメール大変失礼致します。おっしゃられた運動をしてきました。と言っても自転車で思いきりこいで走っただけなのですが。
このメールに対して、私は簡潔に問いかけた。
「あなたは誰?」
そして返ってきた答えが、朝のメールなのである。
私は面談の時に、かおりに催眠をかけた。「帰ってから一時間、運動をするように。そうすればよく眠れるから」と。精神医学の素人が、遠隔の地から心と心を通じ合わせるには、私なりに催眠がベストだと思っている。汗を流し、爽快感を味わったことで、統率する人格が私を信用したことも幸いした。
もちろん、えみが発信する自傷メールや、私に会いたがる洋子のメールの狭間に来た、たったひとつの異なった反応だったが、私はそれを見逃さなかった。
とにかく、リーダーを引きずり出した。あとは、一点に集中して誘導するのみだ。
親に告白しなさい。
ー 次号、最終章 BOSS ー