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これは「女性に対する戦争」 ――アメリカ大統領、なぜカマラ・ハリスはダメなのか?

アメリカで国民的人気を誇る歌手のビリー・アイリッシュは、大統領選挙でカマラ・ハリス民主党候補がドナルド・トランプ共和党候補に敗北したことを「女性に対する戦争」と表現しました。挑発的なこの表現、どういう意味でしょうか?

そもそも伝統的な価値を重んじる保守的なキリスト教徒と南部(中西部)の白人層を支持基盤とするトランプは、女性が妊娠した場合の人工中絶に反対する立場をとっています。それに対し、「女性が人工中絶をする権利を持たないとは何事か!」と憤る都市部、若者、女性、リベラル派などを支持基盤とする民主党の候補ハリスは、人権や出産に対する個人の選択を重視し、妊娠中絶の権利を主張しています。ビリー・アイリッシュは、トランプとその支持者による人工中絶の権利制約を「女性に対する戦争」と表現したのです。

ビリーのいうことはもっともで、私も妊娠した女性全員が出産しなければならない社会なんて理不尽極まりないと考えます。しかしながら、もし私がアメリカ国民であったとしてもハリスを支援することはなかったでしょう。その理由は、ハリスが大統領候補になった当初から感じていた「唐突感」にあります。「唐突感」というのは、ハリスが民主党内部で実施される大統領予備選を戦い抜くことをせずに、突如バイデンから禅譲(=次のリーダーに権力を譲ること)されたときに感じました。

ハリスの政策に最後まで磨きがかからなかったのは、突如バイデンに禅譲されたため大統領予備選で揉まれた経験がないからでしょう。自分の政治理念や国家観を支持者に伝えることすらできなかったその弱さが、口を開けば「トランプの悪口ばかり」という戦い方に如実に表れてしまった。私は、もっと政策を磨いた上で正面からトランプを打ちのめしてほしいと期待していましたが的はずれでした。ハリスは単に女性初の大統領誕生という「象徴的」な存在に留まってしまったのです。

Wikipediaより

 

誤解のないように述べておきたいのですが、企業の投資活動や株式市場の活性化はトランプの業績だと私は思っています。しかしトランプの代表的な政策である「アメリカ・ファースト」の理念に共感しているわけでも、感銘を受けているわけでも全くないということです。不法移民への取り締まりを強化すると言ったり、自由貿易協定に反対したりと、トランプは外交にせよ、貿易にせよ、アメリカだけの利益を守るといっているのです。短期的にはアメリカの国益にかなうかも知れませんが、長期的な視点で見た場合、アメリカの信頼が損なわれるのは、日本人としても本望ではありません。

むしろ、環境問題、貧困や経済的格差の是正、社会福祉策の拡充を主張する「リベラル派」の進展を望んでいる立場なのですが、いかんせんハリスの戦い方では勝ち目がなかったということでしょう。女性初の黒人(アジア系)大統領誕生の障壁は、まだまだ高く厚いと感じた次第です。

 

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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