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米国のホルムズ海峡逆封鎖は見事な妙手

逆封鎖のインパクト

 イランとの第1回停戦協議が不調に終わると、米国は誰もが予想しなかった行動に出ました。米国海軍によるホルムズ海峡の封鎖です。
 日本ではその事実が報道されただけですが、米国では反トランプの識者も評価するくらい、これは見事な妙手であることに留意すべきではないかと思います。
 ホルムズ海峡は最初にイランが封鎖しましたが、自国の原油を運ぶタンカーや通航料を払うタンカーだけは通していました。米国は、ホルムズ海峡を逆封鎖することで、それらイランにだけメリットのある船舶が通航できないようにしたのです。
 これには幾つかの効果が見込めます。まず、兵糧攻めで既に疲弊しているイラン経済が更に追い込まれます。この封鎖でイランは一日当たり4.3億ドル(約700億円:民間機関推定)もの莫大な経済損失を被ります。(輸出(原油、石油化学製品、石油以外)の減少が2.7億ドル、輸入の減少が1.6億ドル)
 つまり、よく喧伝されていたイランの原油輸出拠点のカーグ島の攻撃・占領よりも、イラン経済へのインパクトが大きいのです。
 次に、イランにもっとも影響力のある中国を引っ張り出せます。中国も石油・ガスの備蓄があるとはいえ、原油輸入の40%強がホルムズ海峡経由なので、封鎖が長期化すれば悪影響は免れません。
 実際、これまでは米イラン戦争に距離を置いてきた中国も、先週になって習近平が和平を求める声明を出しました。
 ついでに言えば、この逆封鎖は米国のかつての偉人の取り組みの再現ともなっています。米国の独立宣言を起草して、第3代大統領になったトーマス・ジェファーソンは、当時英仏が米国船舶の通商を妨害した際、“航行の自由”を強く主張して武力行使ではなく経済的な手段(米国船舶の外国への出航の禁止)で対抗したのです。

核問題で合意できるか
 この逆封鎖の効果が大きかったからこそ、イランは、停戦中はホルムズ海峡を開放すると宣言しました。
 それでは、米国とイランの和平交渉が早期にまとまり、恒久的な停戦とホルムズ海峡開放が実現するでしょうか。それは、イランの核問題を巡る取引の中身次第だと思います。
 2015年にオバマ政権がイランと締結した核合意は、イランに軍事転用可能な高濃縮ウランの生産を15年間禁じました。トランプはそれを破棄して戦争を仕掛けたのですから、オバマ以上の成果を獲得しないと批判に晒されかねません。
 だからこそ、第1回和平交渉では高濃縮ウラン生産の停止の期間について、イランは5年、米国は20年を主張したようです。また、現時点では、イランが保有する高濃縮ウランを放棄(国外移転)するのと見返りに、米国は制裁を解除して戦後復興に向けた事実上の資金提供を行う案もあると報道されています。

米国は敵に回したらいけない(笑)
 この交渉がどうまとまるか、そもそも早期にまとまるのか、今はまだ見通せませんが、現時点で間違いなく言えることは、米国はやはり非常に賢い、敵に回したらいけない恐ろしい国だということです。ホルムズ海峡逆封鎖という妙手を考え出し、それがこれだけのインパクトをもたらしたのですから。
 最後に余計なことを書いておくと、個人的に気になるのは中国の動向です。もし米国とイランの交渉が短期でうまくまとまらない場合、米国は中国の影響力も使い出すのではないかと思います。5月の米中首脳会談を成功させたい習近平も協力するでしょう。
 しかし、もしそうなったら、既にそうなっているとはいえ、中東で最も影響力のあるアジアの国は中国であることが完全に確定します。日本は原油輸入の大半を中東に依存していることを考えると、これは日本の安全保障の観点から好ましくありません。ついでに言えば、かつては中東で最も影響力のあるアジアの国は日本だったことを考えると、個人的には忸怩たる思いも大きいです。日本は総力を挙げて中東外交をより一層頑張る必要があります。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

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