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夜逃げ屋

「依頼人から最初に言われるのは、『引っ越したい』ではなく、『消えたい』なんです」

そう話すのは、関東を中心に夜逃げのサポートを行う業者のA氏です。
夜逃げという言葉から、借金取りから逃げる人を想像するかもしれません。しかし実際の依頼者は、それだけではないといいます。

「DVから逃げたい女性、職場の人間関係に限界を感じた会社員、家賃を払えなくなった人、ストーカー被害を受けている人。理由はさまざまです」

依頼の多くは、夜遅くに入るそうです。

「今すぐ家を出たい」「誰にも知られず引っ越したい」。切羽詰まった声で電話をかけてくる人も少なくないといいます。

ある依頼人は30代の男性会社員でした。
長時間労働と上司からのパワハラに耐えきれず、ある日、会社にも家族にも告げずに部屋を引き払いました。

「本人は『人生をやり直したい』と言っていました。でも、荷物を運び出す間、ほとんど言葉を発しませんでした」

夜逃げ屋の仕事は、単に荷物を運ぶことではありません。
退去の段取りを組み、必要に応じて弁護士や行政機関を紹介することもあります。時には、依頼人の話を何時間も聞くこともあるといいます。

「借金やトラブルが原因の人もいますが、一番多いのは人間関係です。家族、恋人、会社。誰かとの関係が壊れた結果、『ここからいなくなりたい』と思う人が多い」

もちろん、夜逃げですべてが解決するわけではありません。借金や家賃の滞納、仕事の問題が消えるわけではなく、新しい土地でも生活は続いていきます。

それでも、A氏はこう話します。

「私たちは人生をリセットする手伝いはできます。でも、人生そのものをやり直すことはできません」

深夜、人気のないアパートから静かに運び出される段ボール。
その中には家具や衣類だけではなく、依頼人が捨てたかった過去も詰まっているのかもしれません。
夜逃げ屋は今日も、誰にも知られないまま「消えたい人」を見送っています。

 

 

櫻麗
猫と紅茶があればご機嫌です

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