家賃を滞納した住人が退去を命じられ、それでも部屋を明け渡さない場合、裁判所の手続きによって強制執行が行われることがあります。

その現場で、執行官とともに動くトラックドライバーがいます。
仕事は、執行官が現場で部屋の状況を確認した後、搬出の許可が出れば、引っ越し業者などと一緒に室内へ入り、住人の荷物を運び出すことです。運び出された荷物は、すぐに処分されるわけではありません。業者の倉庫で一定期間保管されます。
そんな現場で、ドライバーが何度も目にしてきたのが、対照的な二つの光景です。
ひとつは、執行官が部屋を確認すると、すでに何も残っていないケースです。
いわゆる「夜逃げ」です。
家賃を滞納したまま、住人が家具や荷物を持って姿を消している。部屋だけが残され、執行のために訪れた側も何も運び出すものがありません。
さらに、なかには住人が自殺していたケースもあるといいます。
一方で、まったく逆の現場もあります。
執行官の確認が終わり、搬出作業のために業者が室内へ入ると、部屋の中が大量の荷物で埋め尽くされている。いわゆる「ゴミ屋敷」のような状態です。
生活に必要な家具や衣類だけではありません。長期間にわたって物が蓄積し、人が普通に歩くことさえ難しいような部屋もあるといいます。
トラックドライバーが運び出すのは、単なる「荷物」ではありません。
そこには、家賃を払えなくなっても捨てられなかった物、逃げるように去った人が残した生活の痕跡、そして誰にも知られないまま部屋に取り残された人生があります。
強制執行の現場は、ニュースで報じられる「立ち退き」という言葉だけでは見えてこない、住人の生活の最後の姿を映し出しているのです。

櫻麗
猫と紅茶があればご機嫌です
