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『児童虐待と精神障害』精神科医ヤブ

精神障害者が親になると育児にはそれなりの困難が伴う。具体的なケースを3例、紹介してみたい。

30代の女性Kさんは知的障害者だ。結婚して子どもが二人できたが、「イライラして子どもにあたる」と精神科にやって来た。詳しく聞くと「あたる」どころの話ではなく、まだ1歳に満たない子の腕を持って振り回したり、3歳の子の頭を蹴ったりと、明らかに虐待であった。本人と夫に了解を得て保健所に連絡を入れ、下の子は乳児院に預けられた。Kさんは知的障害以外にも躁うつ病を発症していた。「躁状態はテンションが上がって明るくなる」と誤解している人がいるが、実際にはイライラしたり怒りっぽくなったりすることが多い。内服治療で躁うつ病は落ち着き、一年後には下の子も帰っては来たが、やはりストレスへの弱さは変わらず、以前ほどではないにしても子どもに手が上がることは続いている。

Mさんは30代女性の統合失調症で、30代の夫も統合失調症である。統合失調症同士の結婚はわりと多い。入院病棟で知り合って結婚するケースが多々あるからだ。子どもを産んだ後に片方が調子を崩して入院すると、残されたほうが育児の負担を背負わなければいけない。ただでさえ精神障害があるところに、育児負担が倍増するわけで、こちらも精神的に不調になる。結局、二人とも入院になってしまい、子どもは祖父母が面倒をみるということも多い。Mさんの場合、夫婦ゲンカの挙げ句に精神症状が悪化して刃物を持ちだしてしまい、どうにかこうにか入院させて落ち着いた。今も不安定な子育て中である。

40代のSさん夫婦も互いに統合失調症で、16歳の一人息子が不登校になって受診しに来た。彼のIQは135と非常に知的レベルが高く、それ故に両親の病気を本やネットで調べあげ、遺伝的に自分が発症する確率は50%あることも知っていた。この家庭では目立った虐待こそないものの、父は育児に全くの無関心、母は極度に子離れできず、今でも母子で同じ布団に寝るという状況だった。虐待ではないものの、特殊家庭における育児不全とは言えるだろう。また息子の不登校の根も、このあたりにあると推察して治療している。

精神障害者の自由恋愛、自由結婚は認められるべきだが、その先に自由育児があるわけではない。精神障害者をサポートする側の人間は、そういうことも視野に入れて、時に「子作りには賛成できない」など厳しいアドバイスをする覚悟も必要なのである。

 

ヤブ

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