マイネルさんから、高市首相の外交姿勢についてすごく大事な質問を3問いただきましたので、回答させていただきます。
1.先日現役の幹部自衛官が中国の大使館に刃物をもって侵入しました。とんでもない事態なのですが、総理からは一言も発言もなく、官房長官と防衛大臣から「遺憾」とだけ。謝りたくない理由でもあるのでしょうか?どう考えてもウィーン条約違反で、謝罪すべきだと思うのですが。
謝りたくない理由があるのではなく、むしろ私は今回の政府の対応は適切と思っています。確かに政府の人間が他国の大使館に侵入というのは深刻な事態ですが、侵入したのは幹部自衛官とはいえ最も低いランク(3等陸尉)で、かつ1月に昇進したばかりです。
加えて、この陸尉は大使館内で犯罪行為を行なっていないことも考えると、国のトップまでが謝罪する必要はなく、所管の防衛大臣と政府全体を見る立場の官房長官が遺憾の意を表明するので十分ではないかと思います。
もちろん、中国はこれを好機と嵩にかかって日本批判を続けると思いますが、そんなことは気にする必要ありません。正しい相場感で対応することが大事です。
2.イランの外相は、ホルムズ海峡の通過について日本と交渉する用意があると言っています。これも茂木外相は協議する予定はないと。日本は物価高で苦しんでいる中、石油を確保するべく動く必要があると思うのですが・・・。いつになるかわからないアラスカ産の原油の増産に力を入れている場合ではない気がします。トランプ大統領の不興を買いたくないのはわからないでもないですが。
まずご理解いただきたいのは、政府はホルムズ海峡経由以外での原油・天然ガスの調達を増やすべく、水面下では関係企業とも連携して非常に頑張っています。ただ、事の性質上、全ての動きを公に出来ないので、政府の動きが悠長に見えてしまうかもしれません。
イランとのホルムズ海峡を巡る協議については、イランが米国と交戦中、日本は米国支持でイランの核開発を非難していることを考えると、すぐに始めるのには難しい面があるかと思います。
ただ、可能なら、頃合いを見計らって徐々に協議を始めても良いのではないかと思いますし、おそらく高市首相も政府も内々では協議を始めるタイミングを探っているのではないかと思います。表面的に“協議する予定はない”と言っていても、本当に何もしないというのはあり得ません。
先週、自民党の日本・イラン友好議員連盟(岸田元総理が会長)が駐日イラン大使を招き、意見交換をしました。こういう良い動きも出始めているので、日本は伝統的にイランと良好な外交関係を続けてきたのですから、多様なルートを活用して、原油の調達に限定せず、米国とイランの交渉の橋渡し的な役割も果たして欲しいです。
3.いまのトランプ大統領にそこまで阿る必要があるのでしょうか?ヨーロッパから見放され孤立化する中、わざわざ日本が助け舟出す必要があったのか・・・?アメリカと仲良くする必要はあるのはわかりますが、アメリカの世論調査で支持率が低下する中、影響力も減りレームダック化するような気がしています。
今の日本にとって外交上の最大の課題は対中国であることを考えると、日米同盟を不断の努力で強化し、かつ米国が中国寄りにならないようにすることが不可欠です。
そう考えると、トランプ大統領の政策や行動には問題が多いですが、今の米国のトップが王様モードのトランプである以上、その機嫌を損ねることは現実的には出来ないと思います。
かつ、トランプが日々世界を振り回しているけど、どの国も米国を無視できないのは事実なので、高市首相がトランプの懐により一層入り込んで、かつて安倍首相がトランプと他国の首脳の間を取り持ったのと同じ役割を果たせるようになることは、世界の安定のために重要ではないでしょうか。
ついでに言えば、11月の中間選挙でトランプ共和党が敗れても、2年後の大統領選では、民主党は有力候補が不在、共和党は副大統領のJDバンスが最有力候補なので、共和党が勝つ可能性が高いと思います。その場合、米国はトランプ路線、より正確には保守の新しい潮流である“ニューライト”(新右翼)が続くことになるので、トランプ大統領を通じてニューライトとの向き合い方を日本が習熟しておくことは、今後の日米関係のためにも意味があるのではないかと思います。

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。
