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『セックスする女はゾンビになる法則は健在!「ゾンビーバー」』岡田斗司夫

『ゾンビーバー』という映画を観てきた。
この映画、ネットニュースにも「まさかの公開決定」と書かれるほどのマイナー映画。
関東でやっているのは新宿にある一館、しかも夜8:40からの一回のみ。
全国でも5館だけ。

さすがにここまでマイナーだと、「岡田さんの紹介を読んでおもしろそうだと思ったから観たいのに、観られません」という人が続出するかも。
そう思うと、紹介するのもちょっと気が引けるんだけど、そういうマイナーな映画だからこその良さというのも、ちゃんとあるのだよ。

マイナーで行きにくいからこそ、その地方のヘンなもの好きが全員集まってくることになる。
そこに行きさえしたら 「観客はヘンなもの好きだらけ」という場に参加できるのだ。
これ、実に貴重。
というのも、映画って観客層によって面白さが200%くらい違うからだ。

たとえば、僕がむかし観た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の試写会は、主催がソニーだった。
そのため、来ている人が、遊びが好きで、流行に敏感な若者中心で、実にノリがよかったのだ。
みんな大声で笑ったり、歓声をあげたり、手をたたいたりする。
ただでさえおもしろい『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が、僕には3倍くらいおもしろく感じられた。

アメリカで映画文化が盛んな一因として、観客のノリの良さがある。
怖いシーンになったら実際にキャーっと叫ぶし、燃えるシーンになったらウォーっと声をあげるし、感動のシーンだと拍手もする。
コンサートで観客が一緒になって盛り上げるのと同じようなノリがあるのだ。
が、日本の映画館では、なかなかそんなに盛り上がらない

で、『ゾンビーバー』だ。
「ゾンビ」+「ビーバー」=『ゾンビーバー』
このマヌケなタイトルからもわかるとおり、中身は正直、大したことはない。
そんな映画を観るために映画館に来る人は僕も含め、もう本当に「こういうの」が好きな人だけなのだ。
僕が行ったときの印象も、東京中の「ギャグ好き」というか「ヘンなもの好き」の人たちが一堂に会したという印象だった。
一度も会ったことがないんだけど、なぜか会ったことがあるように感じる人たちばかりなのだ。
そういう「センスの合う人たちと見る映画」って、普段よりも3倍ぐらい面白く感じられる。だからこそ、この映画はできるなら劇場に行って見て欲しい。

と、ここで終わってもいいんだけど、観られない人のための内容解説を少し書いておこう。
『ゾンビーバー』は、文字通りゾンビのビーバーが活躍する、ホラーコメディだ。
ゾンビになる理由は、冒頭の2分くらいでサラッと語られる。
汚染廃棄物を運んでいるトラックの運転手がよそ見していて、廃棄物が湖にばちゃんと落ちる。
廃棄物が河を流れていくシーンと重なってアニメでビーバー登場。
かわいいビーバーの2本の前歯が徐々に伸びて牙になり、全身の毛が逆立ってゾンビ化していく。

ストーリーは、ホラー映画のお約束を守って、いかにもなカンジで進行する。
彼氏の浮気で怒ったヒロインが、友達を誘って、山の中の別荘で女子会をする。
まず、お決まりの女優たちが脱ぐシーン。
別荘のすぐそばにある湖で、優雅に泳ぐヒロイン。
水の中からは、ゾンビーバーが泳ぐヒロインをじーっと観ている。
いつ襲われるかと、観客はハラハラというか、ワクワクしながら観る。

そこへ、彼氏がよりを戻そうとして、友達を連れてきて合流。
男女6人のセックス大パーティになったところで、いよいよ、ゾンビが陸に上がって襲ってくる!という展開だ。

ただ、襲ってくるゾンビーバーの攻撃方法は、基本「かじる」だけ。
どうしても地味で単調な戦いになる。
しかも、ゾンビーバーは、ほとんどのシーンが、マペットなのだ。
パペットマペットの「うしくん、かえるくん」を思い出してほしい。
手にかぶせて、指でちょっと動かすだけ。当然、下半身は登場しない。
そんなヤツと戦うわけだから、迫力が出るはずがない。
むしろ、かわいい。

もう一つのゾンビーバーの攻撃技が、ダム作り。ビーバーだからね。
登場人物たちが車に乗って逃げようとするが、道にダムが作られていて、進めない。
この「かじる」「ダムを作る」だけで、ホラー映画としてのおもしろさをも保たなければならないので、かなり苦しい。

映画の後半になって、「ゾンビーバーにかまれた人間はゾンビになる」という展開になり、ようやく少し、ホラー映画らしい怖さが醸し出される
といっても、かまれた人間はただのゾンビになるのではない。
前歯がどんどん伸び、ものすごく大きいしゃもじみたいなしっぽがはえ、「ビーバー」になってしまうのだ。

牙は、かむ攻撃に使うが、しっぽは、床を鳴らして仲間への合図として使う。
実際、ゾンビーバーにされた女の子が、そのでっかいしっぽで床をバッタンバッタンたたいていたが、実にマヌケだった。

読んだだけでも、それはくだらない!と思うだろうが、実際にこれを1時間半かけて観せられたら、そのくだらなさはハンパないのだ。
では、ゾンビーバーはくだらなくて面白くない作品なのか?

つまらない映画観たときというのは、トイレでもみんな黙りこくってるし、帰りのエレベーターでもムスっとしてるものだ。
が、この映画に関しては、観てる最中から、みんな顔をテラテラさせたり、ぼそぼそとしゃべってたりしていた。
つまり、こういう映画を仲間と観られたという喜びで、映画館があふれていたのだ。

映画の最後、クレジットでいきなり主題歌の「ゾンビーバー」が流れたときには、場内が爆笑だった。
アンディ・ウィリアムスの『ムーンリバー』を彷彿とさせるような、モノクロ時代のようなテーマソングだ。
イージーリスニング的なのんびりした「ゾンビ~バァ、ゾンビ~バァ」という音楽とともに、メイキング映像が流れる。
ゾンビーバーに追いかけられ、小型犬が湖を泳いで逃げるシーン。メイキングでは、小型犬がリモコンのゾンビーバーで遊びだしてしまい、「だめだよ~、遊んじゃぁ」という監督の嘆きの声が入っていたりする。

観客たちは、クスクスを通り越して、声をあげて笑い出し、次第に場内は笑いの渦となっていった。
映画と言うのは単なるコンテンツだけではなくて、誰と観るのかも実は大事だ。
見に行けないような映画、日本で数館しかやってないような映画には、逆にそういう仲間を作るチャンスでもある。

とりあえず「ゾンビーバー」、この夏のオススメです。

 

岡田斗司夫

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