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『失敗しないダイエット』岡田斗司夫

僕は一応、ダイエットの(専門家ではないけど)関係者ということになっている。
拙著『いつまでもデブと思うなよ』が57万部売れて一大ブームになったからだ。
これは、戦後ダイエット本ジャンルでの最大のヒット作と言われていて、いまだにその記録は破られていない。
そういうわけで、今でもダイエットの企画があると問い合わせがあったり、ダイエット関係者の集まりがあったら招待されたりする。

この数ヶ月間、そういうダイエット関係者の集まりに参加すると、みんなが口をきわめてののしる仮想敵が生まれた。
その名も高き「ライザップ」だ。

ライザップに関しては、テレビのCMとタクシーにあるチラシしか知らない。
だから、一体それがどういう方法で痩せさせるものなのかもよく知らない。
だけど、とにかくダイエット関係者に評判が悪いことだけは確かなようだ。

「あんな方法だったら、やせるに決まってる」
そんな無茶な方法なのか?

「あの方法ではちゃんとやせない」
ちゃんとやせるってなに?

でも、みんなここがダメという具体的な話はしない。
そう言えば僕のレコーディング・ダイエットも、本が出た時
「あんなダイエット法だったら、やせるに決まっている」と言われたし
「あんなダイエット法は、やせない」とも言われた。

で、思い当たった。
実は、ダイエット業界の人たちはみんな、どこか心に後ろめたいものを持っているのだ。
というのは、ダイエット業界の稼ぎ方は、効果的にやせる方法を指導することではない。それよりも「キャッチーなダイエット法」を考えることで稼ぐ。

◯◯だけ食べればいい
食べる順番を変えればいい
腰をこういう風にまわせばいい
1日◯分、この運動をすればいい……

お手軽そうな「ワンポイント・ダイエット」が、絶対に受ける。
キャッチーなダイエット方法を思いついたらブログとかで宣伝して、できるだけ多くの人にやらせてみる。
1000人ぐらいがやり始めたら、確率的に考えても、そのうち10人や20人は絶対に痩せる。

「ダイエット方法にはずれなし」
これは僕の昔からの持論だ。
どんなでたらめなダイエット法でもたいてい痩せる。
たいていやせるけど、それで1週間しかもたないヤツもいれば2ヶ月くらいもつヤツもいる。
だから、ダイエットで一稼ぎしたい人は、できるだけたくさんの人に呼びかけて試してもらい、たまたまやせた人だけをとりあげて、紹介すればいい。

この手法は、有名な某エステでも使われている。
某エステには、年間数万人くらいやせたいという人が集まってくる。
その数万人に、「では、がんばってこのプログラムをやりましょう。ちゃんとやったら、やせますよ。やせたら『ダイエット王女』に任命して賞金百万円出ます!」
そういうふうに1万人をその気にさせたら、絶対に5人や10人、大成功する人が出る。

「私は6ヶ月で30キロやせました」
「一ヶ月で8キロやせました」
そういう極端な成功者を大々的にとりあげる。

ニュースや宣伝だけを見た人は、まるで「そのメソッドで誰もがガンガンやせる」ように思ってしまう。
でも、それはイメージ操作だ。実際にそこまで痩せるのは、数千人、数万人のうちの数十人にすぎない。
僕が「ダイエット法は、どれでも成功する」と言っているのは、どれでも数%程度は成功の可能性があるという意味だ。その人の体質に合っていたり、生活習慣にたまたま合致してたりするから結果が出る=やせるだけなのだ。
万人に共通の「絶対に成功するダイエット方法」は、僕が知っている限り、カロリーを落とすくらいしかない。
よく「運動すればやせる」という人もいるけど、もともとダイエットというのは、健康のための「食事療法」という意味なので、「運動するダイエット」というのは言葉として矛盾してる。

こういう知識を前提としてると、ダイエット業界の人達がライザップを批判するときの「歯切れの悪さ」を理解しやすくなる。
某クリニックも某エステも、ライザップも同じように、何千人もの人達に試して、たまたま成功した何十人かを成功例として華々しく紹介している。
その手口は同じなのだ。
誰でも痩せますとは言わない。全員が痩せるわけではないのに、そういう言い方をすれば、違法になるからだ。

あくまでも、
「ライザップを試して、こんなすごい効果をあげた人を紹介します。
ほら、この人も、この人も、この人も・・・。
すごいですね」
という論調で紹介する。

タレントを使った宣伝がうまい。
高額をとって徹底指導する方法もうまい。
どうも、同じ商売方法を臆面もなく実にたくみに大々的におこなっているから、腹が立つのではないかという気がする。

ダイエット法のビジネスは、自分のダイエット法以外を批判することで成り立っている。
他のダイエット方に浮気しちゃダメですよ。自分が提唱するダイエット法だけ守ってくださいね、などと

だから強烈な「他のダイエット法」が登場すると、本能的に攻撃するのかもしれない。
ライザップが少し下火になる頃には、また「本当に痩せる方法はこれだ」とか、「科学が証明した新しいダイエット法はこうだ」ということを言い出すヤツが、すぐに出てくるのだろう。

僕は、あらゆるダイエット方法は有効だと思うと同時に、あらゆるダイエット方法は決定打にはなりえないとも思う。

もし、「やせ薬」が発売されたら、ノーベル賞が取れるはずだ。
本当にやせる本当にすごい薬が存在していたら、それはノーベル賞をとってるはず。
セレブだけが知ってるとか、モデルだけが知っているといったダイエット法なんて、どこにもない。

では、どんなダイエット法がいいかというと、どんなダイエット法でもいいから、やめないで続けることだと思う。
僕が今やってるダイエット法は、「今日だけダイエット法」。
ちょっとダイエットしようかな、と思い立ったら、今日の夜までだけダイエットする。
翌日のことは、気にしない。

すると、非常に気軽に続けられた。
気づいたら、もう二ヶ月半続けていて、6キロもやせた。

この方法がいいというわけじゃない。
要するに、どんな方法でも痩せられるのだ。
続けられさえすれば。

 

岡田斗司夫

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