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内部告発を検証する ~元舞妓さんは、なぜ内部告発に踏み切ったのか2

前回「不祥事はたいていが内部告発から ­~ハイリスクにも関わらずなぜ踏み切るのか-」につづき、これから数回にわたり、京都花街の舞妓さんをめぐる実像を内部告発した元舞妓さんの話を深く掘り下げていきたいと思っています。

桐貴清羽(きりたか きよは)さんは、15歳の頃から先斗町で舞妓をしていました。私からインタビューをお願いした理由は、京都花街での一人の舞妓さんの体験を記録しておきたいと考えたためです。目的はあくまでも記録に残すことであり、誰かを責め立てたり、意図的に扇動したり、陥れたりということが本意ではありません。そのため、桐貴さんの口述記録を歴史として文字化するための学術的な手続きを踏みました。インタビュー記録は10時間超に及ぶ長さになりました。



早速、なぜ桐貴さんが内部告発に踏み切ったのかをみていきましょう。以下は、私が桐貴さんに実施したインタビュー(2022年8月から現在まで数回にわたり実施)から引用したものです。内部告発に踏み切る以外に、自分が置かれている不条理な境遇に対して問題を提起する機会が一切なかったことが克明に記されています。

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堺 浄(私)  実際に告発に踏み切るまでの葛藤をお聞きしてみたいです。

桐貴 告発に至るまでの過程にはいろいろなことがあったんですけど。私は自分の置き屋の仕組みやそれを取り巻くみんなの考え方を、その組織のなかから変えていくことが無理だと思ったんです。だからといってこのまま花街で仕事を続けたら、もっと体も心もボロボロになると感じました。当時は10代でお座敷にでてお酒を飲むのが当たり前でしたし、睡眠時間も少ない。辛い状況を少しでも考えないようにするために激しくお酒を飲んでしまうという悪循環も恐怖でした。

このままでは数年後には「おかしい」とさえ考えなくなってしまいそうで怖かったんです。置かれた状況を受け入れることでラクになれるかもしれないけど、かといってこの状況を受け入れて暮らしていくことも恐怖だった。京都から飛び出すことも、京都にとどまることも、私にとってはジレンマだったんです。

そんな葛藤を抱えていたとき、あるお客さんに、「これはおかしい」っていうことを教えてもらったことがありました。私も「確かにおかしいぞ」って確信することができるようになって。でも、内部から「おかしい」ことを変えるためには、まず自分が長生きをして、一番てっぺんに立たないといけません。

私 ただ、自分が長生きできるかだって分からないし、このまま心も体も持つかどうかも分からない。そう考えると、自分がトップに立ってから組織を改善しようっていう戦略をとった場合、時間がかかりすぎることがリスクですね。

桐貴 だから、京都花街の外からこの状況を変えるための方策を考えなければいけないなって気がついたんです。舞妓ちゃんを辞めたのも、そう気がついたからです。あと、心も体も、ちょっと病んでいました。だから変えたいと思ったものの、当時はすぐに行動に移すことができず、悶々としていたんです。

 とても辛かったでしょう。私がその立場にいたとしても心理的に追い詰められていったと思います。

桐貴 当時、自分が置かれた境遇を恨めしく思ったこともありました。そのときの私になかったものは、考えるための時間です。人に会って対話をして、そこから何かを見出したいとも思ったけどその時間がないほど、とにかく舞妓の仕事は多忙でした。これからどうしようかって、いろいろ考えましたけど、私はやっぱり問題を提起する側の人間でいたいと感じたんです。

なんでかっていうと、弱い立場の人の、小さいけど、勇気ある行動を、かき消してはいけないと思ったんですよ。そう考えたとき、やはり自分の舞妓ちゃん時代の体験を棚に上げることはできなかった。無かったことにはできなかった。

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このような葛藤を続けた結果、彼女がSNSを使って告発をするに至るまでには以後数年の月日を要しています。告発に至るまでの葛藤の日々は次回「内部告発を検証する ~元舞妓さんは、なぜ内部告発に踏み切ったのか2」で述べていきます。お楽しみに。

桐貴さんへの半構造化インタビューは10万字以上に及びます。なかには、桐貴さんの直筆で書かれた、舞妓さんの「やることリスト」なども含まれています。

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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