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バイデン米大統領発言「日本は外国人ぎらい」は偽りか、真実か

アメリカ大統領、ジョー・バイデンが5月1日の夜「日本(とインド)は移民を受け入れたがらないゼノフォビア(外国人嫌悪)の国」と発言したことを受け、日本政府が米国政府に抗議を申立てました。

そのわずか3週間前、日米首脳会談で岸田・バイデンが両国の強固な同盟関係を確認しあったばかりであることから、両国にとりこのバイデン発言はその「絆」に水を差すものでしょう。日本国民としては、首脳会談でバイデンが岸田に示したものがそれほど強固な信頼ではなかったことが露呈してしまったのは誠に残念です。

ところで、バイデンの指摘どおり日本は本当に外国人嫌いなのでしょうか? といってもこの問いは多くの分析視角を含むため、たやすく答えが出るものでもありませんから、「誰がゼノフォビアなのか?」という問いに置き換えて考えてみましょう。

ゼノフォビアはどこの国でも見られる現象ですが、あえて言うならば、日本では安倍政権(2006年)以降に、その兆候が社会で見られるようになりました。安倍元総理は自民党立党時の「自主憲法の制定」という党是に再びスポットライトを当て、「憲法改正」を前面に出すことで右派的な理念を一層強調してきたと言えます。並行して、一部の国民にヘイトスピーチなどの偏見や不平等を助長する態度や行動が観察されるようになりました。

それとは対照的に、経済は新自由主義的価値、すなわち、自由市場や自由競争が重視され、政府による介入は最小限に抑えられてきました。一般的に新自由主義のもとでは移民は「労働力」ですから経済成長と労働市場の活性化に寄与すると理解されます。国籍の異なる人々が日本に流入するという意味ではイノベーションや起業活動にも寄与する場合があります。

こうして政治と経済が移民をめぐり交差する(すなわち「ねじれる」)なか、では一体「誰が」移民排斥を目論むのでしょうか? 一つには、異質な人々が日本に上陸することで治安が悪化し秩序が乱れるという懸念が起こりえます。ほかにも。移民の受け入れが雇用の逼迫や生活保護の増大を引き起こし国民に負担を強いることになるという懸念もあるでしょう。これらは決して誤った見解ではありません。むしろ議論や対話を必要とする重要な論点であり、こうした意見の対立によって正義と正義がぶつかり合うのは健全な民主主義のあり方です。

では何が問題なのでしょうか? 筆者が深刻な問題と考えるのは、移民政策を断固拒否することで票を獲得しようと目論む政治家、その逆に、移民政策を強硬に推進することで票を獲得しようと目論む政治家が表れることです。つまりはそうした極端なイデオロギーないしは政治思想を持ち込むことで勢力を拡大させ、権力を掌握しようとする「ポピュリズム政治」の到来を最も警戒している、そういう風に考えています。

「ポピュリズム」は本来ならば複雑で多元的な視点を孕む問題を善玉と悪玉の単純な二元論に複雑な問題を置き換え、極めて単純な構図のなかに世論を誘導することによって、票や人気をむしり取っていく手法です。そうなるとメディアを巻き込んだ上で国民が分断し政情は不安定さを増すことになります。そこに突如出現し、ナショナリズムを煽り、大人気を博して大統領にまでのし上がったのがDonald John Trump アメリカ合衆国大45代大統領でした。

冒頭の問いに立ち戻りましょう。日本にはそこまでのポピュリストが出現していません。したがって、移民政策に対する議論や対話を深めるのはこれからであり、日本を「ゼノフォビアの国」であると断じるバイデンの態度は拙速であると言わざるをえません。

 

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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