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安倍晋三元首相はこの国になにを遺したか -銃殺から2年を目前に

安倍晋三元総理がご逝去した2022年7月8日から、はや2年が経つ。安倍元首相は、2日後に迫った参議院議員選挙の応援演説のため奈良市の近鉄「大和西大寺」駅前を訪れ、背後から銃撃された。搬送先の病院では、昭恵夫人の到着を待って夫人に見送られながら息絶えたのである。歴代最長である8年8ヶ月の在任期間を遂げた大宰相は、この日本に何を遺したのだろうか。

以下、2段落分だけ政治学用語が出てくる。馴染みにくいかもしれないが、安倍の基本政策を押さえておこうと思う。

経済政策、いわゆる「アベノミクス」で安倍は、「円安」を基調としたインフレ政策によって「失われた30年」(デフレ)から脱却しようとした。「3本の矢」のなかでも第3の矢である「成長戦略」は特に重要であり、安倍はインバウンドによる経済成長に力点をおいた。現在のインバウンド増加は「アベノミクス」の結果と考えて良い。「アベノミクス」は経済活動の主体としての「個人」を重視する「新自由主義」(通称「ネオリベ」)である。したがって安倍は、個人間の格差(所得格差、雇用格差、情報格差、教育格差など)が拡大することを「自由競争の結果」として容認する傾向を持つ。安倍のこの基本姿勢は、人権や平等を重視する一定層から「貧困に冷たい」と痛烈に批判された。

一方、安全保障はどうだろうか? 安倍は、「憲法改正」「集団的自衛権の増強」「日米同盟の強化」など「タカ派」的な実績を残し保守層から高い評価を得た。これは「伝統的保守主義」と呼ばれ、「国家」「地域社会」「家族」など「集団」を重視する。安倍のこの政治姿勢は「個人や人権の軽視」だとして「リベラル層」から「袋叩き」にされた。

「ネオリベ」と「伝統的保守主義」――。

そう、安倍は、この二つの相反するイデオロギーの矛盾に立脚しており、そうした矛盾を、経済改革者としての「顔」と、愛国者としての「顔」を、巧みに使い分けることによって、かろうじてバランスを保っていたのである。

こうした安倍の「使い分け」は、経済のグローバル化に対応するための方策であり、中国、北朝鮮、ロシアなどの脅威に対処していくための方策でもあった。しばしば安倍は「安倍一強」と表現され、無敵の強さを誇る「カリスマ的リーダー」のように扱われるが、これまで述べたような理由による政治的な重圧は想像を絶するものであると思う。田中角栄や小泉純一郎など、「善」と「悪」の二元論を明確に示すタイプの分かりやすい政治家ではなく、むしろ「善」と「悪」の峻別がつきづらい多元的な政治課題を自らのビジョンによって切り拓いてきた政治家である。筆者は、安倍を、日本が「停滞」から「成長」への過渡期的な難局を克服するために不可欠な政治家として高く評価している。――ただし安倍が依って立った自民党は今、危機に晒され揺らいでいる。

国会議事堂と堺 浄。

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

 

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