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『両足のない女の子が殺し屋のライバル!「キングスマン」』岡田斗司夫

「キングスマン」という映画を、試写会で見てきた。
結論から言うと、すごく面白い。
「おおむかしの007映画みたいにデタラメで面白い」、と言ってもわかんないだろうから、解説しよう。

007シリーズ原作は、イアン・フレミングというイギリス人作家が書いたベストセラー小説だ。
インタビューで
「どうやればあんな面白い小説が書けるのですか?」
と聞かれたイアンは、
「簡単だよ、読者が絶対に次のページをめくるように書けばいいだけだよ」
と答えたのは有名なエピソード。
この思わずページをめくってしまう面白さの一つが、国際諜報社会、という新しい視点だった。
国家の裏には諜報組織という存在があって、ここが敵国の秘密情報を手に入れたり、破壊工作をしたりする。実はその段階で、既に戦争の勝敗は決まっているのだ。
こういう考え方を、初めてベストセラー小説で世界中に知らしめたのが007シリーズだった。

ちなみに007は「ダブルオー・セブン」と発音する。
ゼロゼロセブンと読んだらダメ。

それが1960年代にハリウッドで映画化され、007シリーズは大ヒットした。
映画がヒットしたのは、大ゲサな敵の設定や荒唐無稽な小道具が楽しかったからだ。
世界の悪を牛耳る犯罪者連合とか。
マフィアの親分が核兵器を所有しようと画策したりとか。
スイッチ一つで自動車が潜水艦になったりとか。
敵の用心棒がシルクハットを投げると、鋼鉄の刃が飛び出して敵の首が斬れたりとか。
大人が楽しめるアクション映画でありながら、こういうファンタジーに近いぶっとんだ設定が受けたのだ。

大人気の007は現在までに24回も映画化され続けた。
初代ジェームズ・ボンド役のショーン・コネリー、70~80年代のロジャー・ムーアと代を重ねて人気だったけど、徐々にマンネリ化しはじめた。
シリーズ11作目の「ムーンレイカー」ではスターウォーズブームに乗っかろうと、ついにボンドはスペースシャトルで宇宙まで行ってしまった。こういう荒唐無稽な設定が観客に飽きられたのか、観客動員数が落ち込み始めた。
それを何とか打開しようと路線変更を試みたのが、1987年15作目の「リビング・デイライツ」。ティモシー・ダルトンを新ボンド役にして、シリアスでハードな映画に切り替えたのが成功の鍵と言われている。

昔の007映画のウリであった「むちゃな秘密兵器」や「おおげさすぎる設定」を排除した路線は大人気になり、ふたたび007シリーズはヒット映画に返り咲いた。
この夏に公開される24作目の最新作「スペクター」はダニエル・クレイグが主役だ。
昔の007とは、完全に毛色が違っている。
豪華だが、リアリティがあって、まじめなスパイものになってしまった。

もうあんな荒唐無稽な映画は作られないのかと僕ががっかりしていた頃に公開されたのがマシュー・ヴォーン監督の「キックアス」というアクションヒーロー映画だった。
「キックアス」は、これまでのヒーローものを見直して、路線変更しようとした作品だ。
主人公は、交通事故で痛みをあまり感じられなくなった高校生。骨がぼきぼきに折れたせいで、骨に鋼鉄が入っているし、末梢神経の麻痺で殴られても痛くない、という設定になっている。
彼がAmazonの通販で買った全身タイツをつけ、痛みを感じにくいという長所を生かし、ヒーローとして戦う。
バットマンなどのいわゆるヒーローものに対して、コメディっぽい設定だけど、実は現実ってこうじゃないの?という主張が明確に打ち出された作品だ。

また「ヒットガール」という小4の女の子の存在が大きい。
お父さんに徹底的に殺人マシーンとしての教育を受けた彼女が主人公の相棒として一緒に戦うという設定なのだ。
日本では「少女が強い」というのは、当たり前すぎる設定だが、アメリカ文化としてはありえないほど画期的なことなのだ。
手塚治虫が「鉄腕アトム」をアメリカで売ったとき、「アトムが10万馬力なんだったら、なぜもっと体が大きくないのだ?子供のロボットが、大人のロボットに勝てるはずはない」と言われたらしい。それほどアメリカ人の「サイズ=強さ」信仰は深い。
しかし「キックアス」では、日本のアニメがすごく好きなヴォーン監督が、全部ひっくり返してみせた。そこが受けたのだ。

「キックアス」が大ヒットしたため、「キックアス2」も制作された。
が、残念ながらこちらは、ヴォーン監督ではなかった。
ヒーローになっちゃった主人公と、相棒の女の子が、それぞれ普通の生活に戻ろうとして悩むという設定になってしまった。
007新シリーズと同様、リアリティはあるけど、僕としてはおもしろくない方向転換だ。興行成績もふるわなかった。

さて、ここまで説明して、いよいよ僕が先日見た「キングスマン」の話。
「キックアス」を作ったマシュー・ヴォーン監督の最新作、それが「キングスマン」なのだ。

舞台は謎の情報部キングスマン
運動神経を見込まれた不良少年が、スパイ養成学園で鍛えられるというストーリーだ。
つまり、スパイものであると同時に、学園ものにもなっている。
「ハリー・ポッター」の成功は、魔法モノではなくて、魔法学園モノだったからだと、僕は思う。
同じくキングスマンは、スパイ学校モノというヘンなジャンルを作り出してしまった。観客の目線は「学園の新入生」として、新しい世界に徐々にはいっていけるのだ。

マシンガンになる傘とか、靴の先から毒入りナイフが飛び出てくるとか、ヴォーン監督らしく、いかにも荒唐無稽な設定が続出する。
敵のボディガードは、20歳くらいの女の子だ。
ここもヴォーン監督らしい。
ひざ下が両足とも義足で、それに刀が入ってて、敵を切りまくる。
かっこいい!

僕はもちろん、かつての007シリーズが好きだった人にはたまらない。
つまり「殺人帽子をかぶるボディガード」「スイッチひとつで自動車が潜水艦」とかいうムチャクチャな設定が大好きな人には、たまらないおもしろさだ。
家族映画として観るには、残酷シーンがあるのでイマイチだが、カップルや男友達と観るには、盛り上がれる最高の映画だと思うよ。

 

岡田斗司夫

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