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総裁選候補者の政治資金問題への向き合い方を考える

 9/12の告示に向け、今週から自民党総裁選の立候補者が続々と出馬会見を開きますが、誰が次の総理総裁にふさわしいか、どのような観点から考えるべきでしょうか。

メディアは政治資金問題を重視し、政治評論家はそれよりも政策の中身が大事と主張しますが、当たり前の話、その両方が大事ですよね。

ただ、自民党は政治資金問題で国民の信頼を失ったままなのですから、この状態でいくら良い政策を語っても国民は振り向いてくれません。この問題をクリアして初めて、政策の中身を語る資格があると考えるべきです。

そう考えると、立候補者が政治資金問題にどう向き合うつもりなのかを精査することは、本当に自民党のトップにふさわしいか、自民党は本当に再生するかを考えるに当たって、決定的に重要となるはずです。

 

国民の自民党への怒りの根源は何か

 それでは、立候補者の政治資金問題に関する主張の正否は、どのような観点から判断すべきでしょうか。私は、単に厳しい対応を言うだけではダメで、“正しく厳しい”対応であるかどうかが問われるべきと考えています。

当然ながら緩い対応は論外です。例えば、小林鷹之氏は立候補の会見で、この問題では主に政策活動費と旧文書交通費という本丸以外の論点に言及し、また裏金問題での更なる調査にも後ろ向きでした。

要は岸田政権の対応の延長線上です。自民党内の目線ではこれでも頑張っていると言えるのかもしれませんが、国民が納得していない以上、それで国民の自民党への信頼が戻るかというと、難しいのではないかと思います。

これに対して、石破茂氏は(その後トーンダウンしたものの)裏金議員を次の選挙で非公認にする可能性をほのめかし、また河野太郎氏は裏金の国庫納付に言及と、両氏とも政治資金問題への厳しい対応を打ち出しました。

厳しい対応を主張すること自体は高く評価できますが、ここで考えるべきは、その方向性が“正しい”かどうかです。

そもそも自民党に対する国民の怒りの原因は何でしょうか。裏金議員への処罰の緩さ、政治とカネの問題が尽きない自民党の体質、政治資金を巡るルールの緩さ(政治資金規正法はザル法、党内のガバナンスも緩い)など、様々な問題が指摘できます。

ただ、敢えて問題の根源は何かと考えると、裏金議員への処罰の度合いよりも、自民党の体質という組織や風土、ガバナンスの問題の方がよっぽど深刻ではないかと思います。裏金以外にも、秘書の給与詐取、香典問題と、政治とカネの問題が未だに尽きないのがその証左です。

 

個人への処罰と組織改革のどちらを優先すべきか

そう考えると、両氏の主張は裏金議員への更なる処罰という、問題を起こした個人への対応を優先していると言えますが、それが新体制での自民党再生に向けた取り組みの第一歩として本当に正しいと言えるのか、よく吟味すべきではないかと思います。

例えば、企業が不祥事を起こして消費者の信頼を失った場合、通常の企業再生で当たり前に行われるのは、不祥事が起きた真相と原因を徹底的に解明した上で、それを踏まえ、まず二度と不祥事が起きないように組織のあり方や社内の風土などを改革し、そしてガバナンスを強化してそれを担保する、というアプローチです。その過程で不祥事を起こした個人を処罰するのは当然ですが、それが最優先ではありません。

政治資金問題への対応で自民党の再生のために必要なのは、本来はこの企業の再生と同様のアプローチではないかと思います。

実際、岸田政権の対応は不十分と言わざるを得ません。そもそもまだ真相さえ十分に解明されていないのですから。幹部議員が聞き取り調査をしただけです。検察の不起訴という判断にしても、捜査内容は公開されないし、国民は検察の判断を信用していません。

以上から、個人的な理想を言えば、政治資金問題への対応で新総裁が優先すべきは、裏金議員への処罰を更に厳しくするという議員個人を俎上に乗せる対応よりも、二度と政治とカネの問題が起きないよう自民党内の組織や風土から監督の仕組みに至るまで、自民党や政治のシステム全体を変えることではないかと思います。

そのための具体的な対応としては、ちょっと考えただけでも、改めて真相を究明する、政党運営のガバナンス強化に向け“政党法”を制定する、政治資金規正法を更に厳しく改正する、政治資金などの監査を抜本的に厳しくするなど、やれること、やるべきことはまだまだたくさん思いつきます。

 

 もちろん、石破、河野の両氏は熟慮の末に、自民党のシステム自体の改革よりも裏金議員個人を俎上に乗せる方向を選んだのでしょう。世間への分かりやすさ、議員票を狙う心理など、おそらく色んな事情があるはずです。

 でも、そんなこと国民には関係ありません。国民が期待しているのは、自民党が二度と政治とカネの問題を起こさない組織に生まれ変わることです。総裁選の立候補者の皆さんには、一政党の組織も“正しく厳しく”改革できないようでは、日本を良くすることはできないし国民も期待してくれないと肝に銘じてほしいものです。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

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