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中尾彬さんの本当の凄さ

 中尾彬さんが亡くなりました。メディアでは、中尾さんの俳優としての凄さや志乃さんとの仲睦まじさといった面が多く報道されています。

しかし、約7年にわたり毎週コメンテーターとしてワイドショー(テレビ朝日“グッドモーニング”)に一緒に出演し、中尾さんに近しく接しさせていただいた経験から、そうしたテレビに映る表面のこと以上に、多くの人に中尾さんの本当の凄さを知っておいてほしいと思っています。

 というのは、中尾さんは、一緒にテレビに出演していた時は70代でしたが、強さ・カッコよさ、優しさの三つを兼ね備えていて、高齢者の生き様として最高の姿を体現していたからです。

 まず強さについてですが、中尾さんは多趣味で好奇心旺盛、交友範囲も広かったからか、日本の良さや強み、人のあるべき姿などについて確固たる自分の考えを確立していました。政治の話題でも芸能の話題でも、常にそのブレない軸から自分の考えを率直に言い、誰かに忖度することも一切ありませんでした。

 ちなみに、中尾さんは、時間がある時は神保町の古本屋街を巡るくらい、70歳を過ぎても知識欲旺盛で、自分の関心ある分野については常に読書して学び続けている感じでした。すごく知的な方だったのです。

この姿勢は全ての人が見習うべきです。ネットで情報が氾濫する中で、自分の頭で考えて自分なりの価値観を確立できている人は非常に少ないですが、それで自分の理想を実現して充実した人生を過ごせるはずがありません。

かつ、高齢化により今後は70歳を過ぎても働くのが普通になることを考えると、この知識欲と生涯学び続ける姿勢はすごく重要になります。

また、忖度しない姿勢も大事です。中尾さんはたまに、政治問題で厳しい発言した後に“言い過ぎちゃったかなあ”とボヤくこともありましたし、実際にプロデューサーが冷や汗かいたことも何度となくありました。でも、中尾さんは一切後悔はしていませんでした。この妥協せずに信念を通す姿勢は、生きる上ですごく大事です。忖度は妥協につながります。そして、一度妥協したら人生は妥協の連続になります。それで人生が楽しいはずありません。

 次に、カッコよさです。中尾さんはワイドショーに私服で出演していましたが、70歳を過ぎてもジーンズやスニーカーなどを着こなし、服装の色合いも常にセンス良かったです。いつも服装がダサい19歳下の私が何度か、もっとお洒落しろと説教されたこともあるくらいです。

 世の高齢者を見ると、もうお洒落という意識はなくなってしまい、色合いも含めダサい地味な服装の人ばかりです。それでは、本人の気持ちもアガらないし、より一層老け込んでしまうだけではないでしょうか。

自分の経験からも、やはり最低限のお洒落、きちんとした格好をするというのは、前向きに色んなことに取り組むという姿勢につながるのではないかと思います。中尾さんは芸能人だから自分とは違うなどと思い込まず、高齢になってもカッコよさを意識してこそ若々しくいられると思ってほしいです。

 最後に優しさです。中尾さんは強面のイメージもありましたが、実際には本当に優しい方で、ワイドショーに出演している時は、出演者のみならず若手のスタッフにも分け隔てなく明るく声をかけていました。

また、普通は番組が終わったら出演者はすぐ帰るものですが、中尾さんは番組終了後に必ず私や男性アナウンサーをみんな集めて30分くらい“反省会”をやっていました。実際にはみんなでバカ話をするだけなのですが、そこで若いみんなと何でも気軽に話をして、色んなことを教えてくれました。また、年に1、2度は反省会の延長で全アナウンサーを自分の常連の店に連れて行き、そこで美味しいものをご馳走してくれました。

この反省会が続き、自然と中尾さんを中心とした出演者の団結が強くなり、“中尾組”という感じになりました。その結果、中尾さんと私が出演していた火曜日の番組の雰囲気は、他の曜日と明らかに違って明るく楽しかったのです。

これらの中尾さんの行動は、若い人たちへの思いやりであり、また番組を盛り上げるためだったのだろうと思います。朝5:15にテレビ局に入って6時から8時まで本番で、70代の身体には間違いなくしんどかっただろうに、ここまで周りへの気遣いをする。こうやってこそ、年長者は若者の信頼を得られるのではないでしょうか。

 本人から伺ったのですが、中尾さんは若い頃は“千葉の3悪人”の一人に数えられる位に、本当にヤンチャだったそうです。悪いことも散々やって、でも自分に正直に真っ直ぐに生きてきたからこそ、最高にカッコいい70代の高齢者になれたのだろうと勝手に思っています。

中尾さんの俳優としての実績は本当に凄いです。でも、素の中尾さんはもっと凄かったのです。高齢の皆様は、中尾さんの強さ、カッコよさ、優しさをロールモデルにして、ちょっと頑張ってみてはいかがでしょうか。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

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