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余命あと10年

 ご存じの方も多いと思いますが、約1年前、僕は多発性骨髄腫を患っていることが発覚しました。以来、抗がん剤を含む様々な治療を行ない、今も治療が続いていますが、その過程で私は自分の余命があと10年くらいと理解しました。それが分かったのが1年前だから、正確にはあと9年ですね。

 分かった時は、正直すごくショックでした。もう60歳を過ぎたとはいえ健康で元気だから、自分の人生はまだまだずっと続くと無意識のうちに思っていたところに、突然人生の残り時間が分かってしまったのですから。

 しかし、入院中に頭の体操を繰り返すうち、結果的にこのタイミングで病気に罹ったのは運が良かったのかもしれない、と思うようになりました。

人生はハッピーにエンジョイしないと

 というのは、まず過去20年弱の自分の人生をすごく反省したからです。僕は元々、若い頃から仕事でもプライベートでも自分の好き勝手を最優先してきました。10年単位でやる仕事も大きく変わっていたくらいです。しかし、家族ができて、また個人の仕事が中心になったことで、自分がやりたいことを犠牲にしてよりも、家族や仕事先のことを優先するようになっていたからです。

 これを死ぬまで続けたら後悔するだろうと思い、僕は決心しました。残りの人生は自分のハッピーを最優先にして、最後の人生をエンジョイしようと。

 具体的には、もう家族や仕事先にばかり気を使うのは辞めて、昔のように自分のやりたいことを最優先にやると決めました。家族より自分自身のハッピーを追求するのです。若い世代の育成など、稼ぎに繋がらない仕事ばかりになりますが、家族のためには最低限稼げればいいと割り切っています。

 また、この20年弱の間やっている仕事が何も変わっていないというのも妥協でしたので、チャンスがあれば遠慮なくやることを大きく変え、最後にもう一度人生をエンジョイしようと思っています。

 

日本はアンハッピーな国になってしまった

 つまり、昔の自分勝手な自分に戻るだけなんですが、それでも、病気になったことで私の人生観や考え方はかなり大きく変わりました。自分と同じ境遇にある人や定年を迎えた人はもちろん、若い世代の人も、自分のハッピーとエンジョイを追求すべきではないかと考えるようになったからです。

 これまで僕は仕事柄、政府の政策、企業の戦略といったことばかりやってきましたが、病気をきっかけに個人のハッピーの大事さを改めて実感しました。その観点から今の日本を見ると、個人よりも組織(会社、家庭など)が重視される土壌に“失われた30年”が合わさった結果、日本は個人にとってすごくアンハッピーな国になってしまいました。

 国別幸福度ランキングを見ると、日本は世界で第47位と、G7で最下位なのはもちろん台湾やメキシコより下です。また、一人当たりGDPを見ると、2000年は世界第2位だったのが今や第34位まで落ちました。G7で最下位ですし、その金額はシンガポールの半分以下です。

 つまり、日本人が大好きな“経済大国”という過去の栄光をバブル崩壊以降も官民がしつこく追い続けた結果、日本は個人にとっては精神的にも物質的にもすごく貧しくなってしまったのです。

この状況を変えるには、社会の価値観そのものを変えるしかありません。そのための第一歩は、政策でも企業の行動でもなく、個人が自分の行動を変えることです。まず自分のハッピーとエンジョイを優先し、その次に家族、その次に仕事という感じでしょうか。

 上記のような病気をきっかけとした僕の反省と決心、人生観の変化、それを踏まえた日本の将来に向けた提言などを「余命10年」(幻冬社)という本にまとめました。ご関心ある方はぜひお読みいただければ幸いです。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

 

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