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とことん弱く貧乏になってしまった日本の現実 働く人全体の8割が年収330万円未満

日本の長期金利1%という水準が示す悲しい現実

皆さん、こんにちは。年末に相応しい話題か分かりませんが、今回はちょっと大事な問題提起をしたいと思います。

今年は物価上昇が続いたこともあり、日銀の金融政策が注目されることが多かったですよね。特に、秋に長期金利1%超えを容認したことが大きな話題になりましたが、そろそろこの1%という数字が意味する本当に深刻な問題を考えるべきはないかと思います。

1%という金利の水準は米国の4〜5%と比べると非常に低いです。なぜここまで日本の金利が低いかと言うと、大規模な金融緩和の影響ばかりが言われますが、実体経済が非常に弱いので、金利を上げたら経済へのダメージが大き過ぎるから上げられないという現実もあるのです。

 実際、日本経済の潜在成長率(長期的に実現可能な経済成長率)は、1990年度に3.7%だったのが、過去30年の間に低下を続けて今は0.4%しかありません。米国の1.8%、フランスの1.2%と比べると、いかに日本経済がダメになってしまったかが分かります。

 なぜこの30年で日本経済の成長ポテンシャルが1/10にまで低下してしまったかを考えると、デフレの影響が大きいのは事実ですが、それよりも、政府の経済政策の失敗と民間の萎縮・甘えの結果という面が大きいのです。

政府は、1990年代からグローバル化・デジタル化という構造変化が世界的に進んだにも拘らず、経済の構造改革を進めるよりも、目先の不景気への対応で経済対策を乱発(+金融緩和)して短期的な需要を追加することに終始しました。

しかし、財政政策や金融政策の効果は基本的に将来の需要を先食いするだけで、経済の体質強化にはつながりません。

その一方で、特に大企業の経営者の多くはデフレを言い訳に、自らリスクを取って思い切った賃上げや投資を行ってビジネスを成長させることをしないで、政府のカネ(補助金や優遇税制など)を頼りにしつつ、リストラとコストカットばかりやってきました。だから働く人の収入も減り続けたのです。

 それが30年も続いた結果として、企業は何かあるとすぐ政府に依存するようになってしまいました。これでは企業の競争力が高まるはずないので、潜在成長力も低下して当然です。

 

日本人は本当に貧乏になってしまった

 しかし、30年も続いたデフレも終わり、日本経済は物価が上がるというノーマルな状態に戻りつつあります。デフレという異常な状態に慣れきってしまった日本経済を再生するチャンスが来たのです。そこで企業や個人が競争力を高め、企業なら利益、個人なら収入を増やすためにはどうすべきでしょうか。

 色々とポイントがあるのですが、敢えて一つだけ企業と個人に共通して言える最も大事なポイントを書くと、この30年で企業も個人も競争力が著しく低下し、ものすごく貧乏になってしまったことを自覚し、そこから這い上がるには並大抵の努力では足りないと認識することではないかと思います。

 競争力について見てみると、日本の世界における競争力総合順位(スイスIMDの調査)は、1989〜1992年は1位、1996年までは5位以内だったのが、今年は過去最低の世界35位にまで落ちました。

 ちなみに、同じIMDが発表したデジタル競争力ランキングでは日本は世界32位と低迷し、シンガポール、韓国、台湾などに大きく差をつけられています。

 こうした競争力の低下を反映し、日本の一人当たり生産性はOECD(先進国連合)加盟38カ国中29位(G7の中では最下位)と、1970年以降で最も低い順位となり、旧東欧諸国とほぼ同水準となってしまっていました。

 これだけ競争力が低下した結果、日本はこの30年ですごく貧乏になりました。一人当たりGDP(一人当たり所得水準)を見ると、2000年頃は世界1位だったのが今や32位にまで落ち、その水準はシンガポールの半分以下です。

 よりリアリティを感じられる数字を紹介すると、日本人の平均年収は458万円(国税庁調査)ですが、年収の中央値(働く人を給与の順に全員並べた時にちょうど真ん中に位置する人の年収)は400万円を切っています。

 一方で、米国人の平均年収は59,400ドル(Forbs調査、今の為替レートだと850万円)、中央値は89,000ドル(1,270万円)です。1980年代には日本が経済で米国を追い越すと言われていたのに、今や働く人の年収レベルでここまで差をつけられてしまったのです。

 ちなみに、日本の所得税の最低税率は5%(年収195万円未満)ですが、所得税を払っている人全体の中で5%の人の割合はなんと59%も占めています。5%の次の税率は10%(年収195万円から330万円未満)ですが、所得税を払っている人全体の中で5%と10%の人の割合を合計すると、なんと80%になります。働く人全体の8割が年収330万円未満なのです。

これらの残念な数字から明らかなように、30年もデフレが続いた間に日本人は凄まじいくらいに貧乏になってしまったのです。

 

企業も個人もとにかく頑張るしかない!

 このようにどん底の状況から這い上がるには、デフレ時代の緩いやり方から訣別して、目一杯リスクを取ってとことん頑張るしかありません。

 例えば企業でいえば、今年の春闘での賃上げ率が3%台後半となり、30年ぶりの高い数字が実現して凄いとメディアでもてはやされましたが、昨年度は企業全体(金融、保険を除く)で当期純利益が18%増え、内部留保が7.4%増えています(法人企業統計)。

つまり、デフレが終わり、また人口減少下で優秀な人材の確保が企業の成長に不可欠であるにも拘らず、実際には未だに企業は人件費よりも内部留保の方をよっぽど多く増やしているのです。これで企業の競争力が本当に高まるでしょうか。

 また、個人に関していえば、ワークライフバランスやコンプライアンスという言葉の下、若い人の中には収入よりもプライベートの充実を望み、また会社での厳しい指導を嫌う人が多いようですが、休みの日数や時間が増えても個人の生産性は高まりません。とことん努力する気がなかったら、今の国際的に見て非常に貧しい状況が一生続くことになります。

 どうも報道を見ていると、物価も賃金も上昇を始めて株価も上がり、日本経済の将来は明るいというような論調が多くなっている気がしますが、こうした表面だけのお気軽な報道に騙され、特に一生懸命努力しなくても収入は増えていくなどと勘違いしないようにしてください。

 例えば、株価が上がっているのは、日本経済が強くなっているからではなく、大企業が社員の賃上げと下請け中小企業への支払いをケチって利益を増やした(+円安で輸出企業の株価が上昇した)からに過ぎないと私は思っています。だから、大企業の株価は上がっても全体の景気は良くないのです。

 なので、心ある企業や個人の皆さんは来年こそ頑張りましょう。逆に言えば、周りが緩い企業や個人ばかりなので、まともに頑張れば必ず勝てます。

 

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

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