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衆院補欠選挙の結果から分かること 〜国民は政治全体に愛想を尽かし始めている〜

どの政党も主義主張より党利党略ばかり

 4/28の衆院補欠選挙の総括をするに当たっては、自民党の全敗という結果よりも、投票率の低さに注目すべきではないかと思っています。国民の政治不信の表れと考えられるからです。
 それでは、なぜ国民の政治不信がここまで高まったのでしょうか。政治資金疑惑で自民党への怒りが爆発したのが最大の原因なのは間違いありませんが、個人的にはもう一つの要因があると思います。与野党問わず大半の政党が主義主張や政策よりも党利党略ばかりを優先することへの不信感の高まりです。
 多くの野党は、政策では国民受けの良い予算バラマキや減税を主張する程度で、国会審議では政治資金問題などスキャンダル追求が最優先、選挙では政策実現よりも自分たちの勢力拡大が最優先、と近視眼的な対応ばかりです。とても本気で日本の将来を明るくしようとしているように感じられません。
例えば、東京15区で国民民主党は、自民党が乙武氏を推薦しないとなったら推薦を決めました。主義主張が合うかどうかではなく、党利党略だけで候補者の推薦を決めたのです。立憲民主党が共産党と連携したのも同じ文脈です。
しかし、国際情勢が激変・緊迫し、国内では人口減少や競争力の低下など、これだけ国内外で深刻な課題が山積みとなっている中で、政治の側がそんな悠長なことをやっている余裕はもうないはずです。
それにも拘らず、政治とカネ、そして主義主張よりも党利党略と、永田町は昭和の時代と何も変わっていないことを国民は直感的に感じ取り、それに心底うんざりしているからこそ、投票率も低くなったのではないでしょうか。

政治家が小役人化している悲しい現実

 その国民の直感は非常に正しいと私は思っています。政治とカネの問題は論外ですが、国会の質疑を見ていると、与野党の双方とも政党としての主義主張がなくなってしまったのではと思わざるを得ません。
例えば、現在国会では、外国人労働者の技能実習制度の見直しなどを内容とする法案が審議されています。移民など外国人政策の根幹に関わる法案なので、本来は保守(与党)とリベラル(野党)で目指す政策の方向性は全然違うはずで、激しい論戦になっておかしくないのに、議論は全然盛り上がっていません。
野党には政府が作った法案を全面否定する気配もなく、法案は成立させるのを前提に、多少の微修正や附帯決議を勝ち取ればそれで満足のようです。子育て給付金など他の政策への対応も同様でした。
なぜこのような体たらくになってしまったのでしょうか。与党のみならず野党の国会議員も小役人化しているからではないかと私は思っています。
どの政党もビッグピクチャー、つまり自分たちの主義主張や目指すべき日本の将来像、そのために実現すべき現実的な政策の方向性などを明快に示さない(示せない?)中で、所属する国会議員も、政治の本来の役目である大きな政策の実現よりも、まるで霞ヶ関の役人のように、政府が作る政策の細かいところの修正ばかりに血道を上げるようになってしまったのです。野党の場合は、スキャンダル追求ばかりで政策立案能力が落ちてしまったのかもしれませんが。

どの政党が補欠選挙の結果を正しく総括できるか

 このように考えると、政治が国民の信頼を取り戻すには、まずは自民党が政治とカネの問題でしっかりとした対応をすべきですが、それだけでは不十分ではないかと思います。
すべての政党が明快に自分たちの主義主張、具体的には目指すべき日本の将来の姿、そのために必要となる現実的な政策のパッケージ(国民に不人気な政策も含む)を示し、国会などで真剣勝負の政策論争をすべきではないでしょうか。
はっきり言えば、政治はこれまで国民を舐めていました。予算のバラマキや減税など“国民に甘い政策”を主張すればみんなが喜び、選挙で投票してくれるし政治資金も寄付してくれると考えていたはずです。
でも、実は国民は本質的に賢いし直感も鋭いので、政策に関する詳しい知識がなくても、メディア経由の情報や映像から、直感的にもうバラマキなどの短期的な甘い政策では日本の明るい将来は描けないと分かっているし、政治家は基本的に信頼できないと思っています。
今回の補欠選挙で立憲民主が3勝できたのは、別に立憲民主への支持が飛躍的に高まったからではなく、政治不信で投票率が低い中で支持母体の労組や共産党の固定票が頑張っただけです。
どの政党が今回の補欠選挙を正しく総括して、国民の信頼を取り戻すために必要な正しい対応をするようになるか、国民の側はじっくりと見定めるべきではないかと思います。
政治とカネの問題が当面の焦点になるのはやむを得ませんが、政治のイシューがそれだけに終始してしまっては、本当の意味での国民の政治への信頼は絶対に回復しません。そろそろ政治も昭和の時代から脱却して進化を遂げるべきです。それなしに日本の明るい将来は絶対に作れません。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

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