前回「内部告発を検証する ~盃を交わす=囚われの蟲なのか」につづき4回目の連載は、花街の未成年飲酒についてです。
桐貴清羽(きりたかきよは)さんが舞妓としてお座敷にデビューしたのは16歳の頃です。16歳は親権者の同意があれば労働基準法の定めに従って働くことができるものの(民法第5条)、実際はまだ義務教育を終えたばかりの「子ども」です。少しずつ心も体も女性らしさを帯びてくる年頃ですが、小さくてあどけない。
ある花街の常連さんは「初めて会ったときに少し赤い口紅を差しただけの少女だった舞妓さんがだんだん色っぽくなっていく姿を見るのが好きだ」と語りました。誰の目から見ても16歳の少女が美しく成長していく姿は生命力に溢れ、エネルギーそのものです。ただし、その美しさに立ち会う場が、なぜお座敷(お酒の席)でなければならないのかについては、法律的にも倫理的にも疑問符がつきます。
今回は、16歳の頃からおびただしい量のお酒を飲まざるを得なかった境遇を公になさった桐貴さんの体験を書きます。16歳の少女が当たり前のように飲酒をするという特殊な状況を、なぜ誰も疑問と感じず、概ね平穏にその慣わしを続けてきたのか、皆さんと考えていきたいと思います。
私
16歳の頃、実際にはお座敷ではどのくらいのお酒を飲んでいたんですか?
桐貴
お座敷に限らず、外でもお客さんと一緒のときは必ずと言って良いほどお酒を飲んでいました。「あびるほど」かも知れません。体質なのかもしれませんが、私、激しく酔っ払うことがほとんどなくて。あの頃はお酒に対する感覚がかなり麻痺してしまっていたと思います。
私
「あびるほど」?? それは桐貴さんだけ? それともほかの舞妓さんや芸妓さんも?
「盃」を交わしたお母さんは、それについてなにかお考えはあるのかしら?
桐貴
とにかくみなさんめちゃくちゃ飲みます。舞妓ちゃんは酔っ払っていると可愛いと思われる傾向があるので、そう思われたくてとにかく飲んでしまっていました。だんだんと、お酒を飲んでストレスを発散しようというふうになっていってしまいました。
私
とはいえ、性別や年齢とは関係なく心身ともに健康でないと仕事は続けられませんよね。健やかに舞妓を続けていくために、例えば運動を奨励されたり健康診断や人間ドックで病気を予防したりといった福利厚生はどうなっているんですか?
桐貴
いや、そういうのはあまり…。体調が悪いと飲んで回復させるみたいな雰囲気を感じました。飲みたくなくても「あーた、飲みやし」ってすすめられますから「おおきに」って言って飲んでしまう。どんなに体調が悪くても、お医者さんにいくというよりは飲まなきゃ、という状況にいたように思います。
以上のインタビューからも、16歳の舞妓さんが日常的にお酒を嗜んでいたことが分かります。驚くべきことは、「飲む」ことでストレスを発散せざるを得ないような状況に舞妓さんが追い詰められてしまう環境が文化的、伝統的に肯定されていることです。華やかな「お座敷」文化の深刻さを物語っているといえるでしょう。
次回は、舞妓さん時代にお酒に依存していった経験を掘り下げつつ、労働の対価としての「お金」の話を取り上げていきたいと思います。お楽しみに。
舞妓さんのお酒の席は「お座敷」とは限らないという。桐貴さんの2022年6月26日の「X」より(2024年2月4日時点)
女探偵 堺浄(さかい・きよら)
政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。