前回につづき5回目の連載は、お客さんとの「お風呂入り」についてです。「お風呂入り」というのは舞妓さんがする接客のひとつで、一緒にお風呂に入ったり、お客さんの体を洗ったりするそうです。
多くの場合、お客さんも舞妓さんもひどく酔っ払った状態で「お風呂入り」をするそうで、これはかなり危険ですよね。したくない「お風呂入り」を無理やりさせられて失神してしまった舞妓さんもいたそうです。
桐貴清羽(きりたかきよは)さんは、お客さんと芸妓のお姉さんと3人で行ったある旅行でお姉さんと作戦をたて、体を張ってどうにかこうにか「お風呂入り」を回避することに大成功したそうです。
今回はその時のエピソードを書いてみたいと思います。
私
どんな作戦を立てて「お風呂入り」をせずに済んだの?
桐貴
芸妓のお姉さんたちと「お風呂入り」の前に、お客さんをベロベロに酔っぱらわせてしまおう、という作戦を立てました。お客さんは70歳代でご高齢なんですけど、普段からとにかく元気でとても良い人です。だけど困ったことに「お風呂入り」がお好きで。案の定、お夕飯の前に「お風呂に入ろう」って言われました。だけど私たち「お腹すいたからお食事しとおす」って言って、まずお食事に行きました。
そこでいつものお座敷のようにお食事をして、その時すでにお客さんはベロンベロンに酔っていました。案の定、食後に「どうしてもお風呂に入る」って言い出して、困った私たちは「カラオケ行きとおす」って言って、お姉さんたちとベロベロになりながらカラオケをしました。
カラオケが終わった後、また「お風呂に行くんだ」って言い出してしまって。
私
そのおじいちゃん、かなり「お風呂入り」が好きなんだね。
桐貴
普段とても紳士でお触りをしたりするような方ではないのですけどね。「お風呂入り」だけはなんとも…。私たちは、とうとう「お風呂入り」を避けるために、力技に出たんです。何をしたかというと、お姉さんが酔っ払った勢いで暴れまくって、壁に「ドンっ!」て頭をぶつけました。わざとですよ。それで流血事件になり大騒ぎになり、流血しているお姉さんが「こんな感じなのでお風呂やめときます」って言ってくれました。実際に、傷はおおごとにはならなかったんですが、ちょっと切り傷ができて血が出たので、私も「お風呂よしときます」って言って、ことなきをえました。
「お風呂入り」を避けるために命懸けの作戦を立てた桐貴さんとお姉さん。お姉さんの怪我は大したことなく血もすぐに止まったとのことで、それは不幸中の幸いでした。その旅行は、桐貴さんの他にも舞妓さんが2人と芸妓さんが1人、そしてお茶屋さんのお母さんが参加していて総勢6人だったそうです。
お客さんはそれをするために一体いくらのお金をいくら払っているのでしょうね。下世話な話、一泊で3ケタは下らないのではないでしょうか。
次回は、お座敷と「お金」の話を取り上げていきたいと思います。お楽しみに。
艶やかな姿の舞妓さんたちも重たいものを背負っているようだ。
女探偵 堺浄(さかい・きよら)
政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。