前回に続き、7回目の連載は「旦那さん制度」についてです。桐貴清羽(きりたか きよは)さんによると、「旦那さん制度」というのは花街によってそれぞれの解釈があり、画一的な制度ではないと言います。桐貴さんが舞妓をしていた先斗町では、「公式的にお客さんと恋愛関係になることをお茶屋さんと置き屋さんが容認する制度」を「旦那さん制度」と呼んでいたそうです。
つまり、お客さんは「お茶屋」と「置き屋」にお金を支払うことで意中の舞妓さんと恋愛関係になることが可能になり、逆に「お茶屋」と「置き屋」からすると、「旦那さん」からお金をもらうことで「旦那さん」が自分のところの舞妓と恋愛関係になることを容認することになります。
では、その制度を使うにあたり、舞妓さんの意思はどの程度尊重されるのでしょうか?
さらに、「お金」とは一体いくらで、「お茶屋」と「置き屋」の分前はいくらずつなのでしょうか?
私
「旦那さん制度」を使って「旦那さん」との恋愛関係になるかどうかを決めるにあたって、舞妓さんの意思は尊重されるんですか?
桐貴
お断りすること自体が難しいと思います。というのも「旦那さん制度」を使うと舞妓は手当をもらえるんです。その手当で生活していくことになるから、お断りしちゃうと生活できなくなっちゃう危険がありますよね。旦那さんとの関係は、場合によってはプラトニックな関係もありえます。
私
「手当」、ですか? ごめんなさい、混乱しているので整理しますね。つまり、旦那さんは、舞妓さんとの恋愛関係を維持するために手当を支払うということなんですか?
…ああそうか! 旦那さんには、きっと本来のご家庭があるわけですね。そうしたなかで舞妓と関係を続けるためには、舞妓さんの生活を保証しなければならないという意味ですね。もし、お答えできない場合は答えなくても大丈夫です。
桐貴
旦那さんにはご自身のご家庭があります。だけど「旦那さん」になることを奥様が容認している場合もあります。これ以上詳しくは話せないことが多いけど。
私
「旦那さん制度」はいくらで成立するんですか?
また「お茶屋」と「置き屋」はそれをどうやって分けるんですか?
桐貴
お金は折半ですね。私の場合、3,000万から5,000万円の間で旦那さんになるという方が3人いました。話はまとまらなかったんですけどね。
私
もし「旦那さん」ができていたら、桐貴さんの生活はどうなっていたと思われますか?
桐貴
多分、旦那さんが来たら「私の彼氏」っていうことで公式な関係になっていたと思うし、私はそれで毎月のお手当をもらって生活していたのではないかな。
私が推察するに、「旦那さん制度」を使うか使わないかは、舞妓として「売れっ子」であるか「売れっ子」でないか次第で決められる可能性があります。つまり、「お茶屋」や「置き屋」からすれば、その舞妓が「売れっ子」ならばお座敷でお呼びがかかることによって十分な売り上げが入ってくるわけですよね。わざわざ「旦那さん制度」を使って儲けるインセンティブは働かないと思われます。
逆にその舞妓が「売れっ子」でない場合は、「旦那さん制度」によって旦那さんからまとまったお金をもらったほうが、「お茶屋」にも「置き屋」にもメリットではないでしょうか。つまり「旦那さん制度」というのは、結局のところ、お金儲けの一つのあり方なのだな、と私は理解しました。
次回は、舞妓時代に桐貴さんが遭遇した壮絶なハラスメントについて書いてみたいと思います。
お楽しみに。
桐貴さんの「X」より(2020.6.26)。「旦那さん制度」は10代の若い女性が背負う運命としては重すぎるのではないだろうか。
女探偵 堺浄(さかい・きよら)
政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。