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4階級制覇・井上尚弥の躍進と「消費の構造」

スーパーバンタム級王者・井上尚弥の最強王者っぷりがすごい。ライトフライ級・スーパーフライ級・バンタム級・スーパーバンタム級の4階級制覇を成し遂げ、なおも今年は4試合をこなすそうです。
大橋ボクシングジムの大橋会長は、「彼には試合のダメージがない。井上が激闘スタイルだったら年に1-2回が限界だけど、試合で打たれないから年間4試合は大したことではない」と説明し、これに対し井上自身も「4試合をこなすということはオフの期間も短く体が戻らないまま試合の感覚を維持できるのでよい」とコメントしています。
私はボクシングは素人同然なのですが、ここ1年ほどの井上の活躍ぶりを見て「次の試合が早くみたい」と渇望する反面、歴史や社会の視点を踏まえると彼の過密ぶりにある懸念が浮かび上がってきます。


大橋ボクシングジム公式ページより

古来より、格闘技は「観る者」を熱狂させる娯楽でした。「観る者」はファイターたちの「限界に挑む姿」に熱狂し、勝者と敗者のドラマに共鳴します。それは圧倒的な強さへの憧れであり、危険と隣りあわせというスリルへの心酔です。ローマ時代の、かのグラディエーターは、死と紙一重の闘技を制した後も、過密な試合によって「消費」され、最後に絶命するのです。「観る者」と「戦う者」との関係構造は、ときに財を、ときに不満の「ガス抜き効果」を生み出す社会の安全弁。そしてこうした構図は現代においても普遍です。

このような関係構造が井上にも影響しているのだとすれば、卓越した技術と耐久力をもつ井上自身が、観る者の欲望を満たすために「消費」される主体となる危険を孕んでいます。グラディエーターが強ければ強いほどさらなる戦いを強いられたように、井上もまた無傷であるがゆえに...井上本人が「オフの期間も短く体が戻らないまま試合の感覚を維持できる」と語るのも、極限の環境に適応したがゆえの発言とも取れるのです。私はむしろ、無理をせずに息の長い選手であって欲しいな、と願うばかりです。

 

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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