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金を借りて逃げたら山中で惨殺される理由(2)

中谷と別れた後、マルタイの事務所に戻ってみた。14畳ほどの事務所には、安物の什器があるだけだ。パソコンも、2世代ほど前の型。見せ掛けのためにしつらえたのだろう。他にもそこかしこに、ゴト師特有の臭いがプンプンしていた。
パソコンのコンセントをさし、もう一度立ち上げてみた。お詫び、とタイトルのついたメモ帳以外、見事に何のファイルも無い。今時、インターネットにもつながってない。ゴミは中谷の前に来た金融業者が一足先に持って帰っていたので、手がかりは何一つ無いかのように見えた。

私は自分の車からコロコロを持ってきて、絨毯の上を這わせた。女の長い髪と・・・犬の毛。
知り合いの動物病院に見せると、それはヨークシャーテリアのものだと分かった。さっそく、半径2キロにある動物病院、ペットの美容院やホテルに確認を取る。すると、現場から百メートル、環六沿いの美容院に犬が預けられているのが判明した。

マルタイの会社社員ということで犬の様子を見に行く。飼い主(マルタイとその愛人)は海外に旅行中。引き取りは五日後、となっていた。

 


マルタイの死体が、それから二日後に出た。雑居ビルから飛び降り自殺だ。あまりにも平凡な出来事なので、新聞には一切、載らなかった。もちろん、遺書もない。警察は、体のどこかに刺し傷でもない限り、動かない。とりあえず、警察署に電話をして、知り合いの刑事にマルタイの現況を伝えた。別の事件で忙しいそうだ。上の空、という感じだったので、たった2分で会話を終える。
その一週間後、マルタイの関係者が群馬の山中で死体で発見される。素っ裸で車のトランクの中。これはさすがに夕刻のニュースに流れたが、たったそれっきりだった。
依頼者には電話で御悔やみを告げた。探偵も初動捜査が肝心。もう少し早い依頼だったら、死なせずに済んだかも知れないが、いまさら何を言っても後の祭り。

 


人の命は、いつも紙一重。これらの事件は今もなお、未解決である。
金貸しの上前をはねたいのなら、命を張る覚悟で。

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