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欠損した手指、多額の現金、そして孤独死 -とある「行旅死亡人」女性の謎-

「行旅死亡人」は、家族や親族がいない故人を意味します。たとえ家族や親族がいらしたとしても連絡が取れないという場合も「行旅死亡人」として扱われます。家族や親族がいないと生前の財産は全て国庫に編入されてしまうし、なによりもご遺体の引き取り手が長期間見つからないと「無縁仏」になってしまいます。今や、孤独死が深刻な社会問題のひとつであることは紛れもない事実です。

2020年4月、田中千津子さん(自称)は兵庫県尼崎市のアパートで「くも膜下出血」による病死で、孤独死の状態で発見され「行旅死亡人」と認定されました。

田中さんの孤独死は「行旅死亡人」のなかでもとりわけ謎に包まれていました。彼女の右手指は全て欠損しており、かつ、アパートの一室から3,400万円もの現金が発見されました。アパートの家賃は月額3万円ほどでしたが、その質素な部屋で莫大な現金を金庫に入れて管理していたようです。なぜ、預金口座に入れて管理しなかったのでしょうか。そして彼女は生前にどのような生活を送っていたのでしょうか。それ以前に、彼女はいったい何者なのでしょうか。

生前の田中千津子さん(『サンデー毎日』より)

「行旅死亡人」の身元を捜索する活動には探偵が深く関わっています。田中さんが暮らしていた兵庫県尼崎市のアパート周辺の聞き込み調査を徹底して行ったのも探偵でした。ところが生前の田中さんは知人友人関係が一切なく、誰も彼女の存在を知らなかったようです。つまり莫大な現金があるからといって派手な生活とは無縁な、質素な、質素な暮らしであったことが判ります。

右手指は工場勤務をしていた時代に欠損したものであり仕事中の事故として労災認定されました。しかしその後、田中さんは自ら労災を取り下げて自立した生活を送っていました。3,400万円という多額の現金は、おそらくは退職金や、コツコツと貯めたものであると思われますが、それにしてもどのように貯めたものなのかは謎のままです。田中さんは探偵などの懸命な調査により、田中さんの孤独死には事件性がないこと、広島市にルーツを持つ女性であること、が判明し、現在は広島市の菩提樹にご遺骨が収められているということです。

田中さんの孤独死は私たちに多くのことを考えさせます。一人ひとりが、いつかは必ず迎える死。そして、その死が、誰にも知られることなく、ただ静かに訪れる可能性。田中さんのような「名もなき人」は、私たちの社会にも多く存在しているのかもしれません。

行旅死亡人の情報は「官報」(https://search.kanpoo.jp/q/行旅死亡人)で閲覧することができます。私も時折ここを閲覧して、「行旅死亡人」の生前に思いを寄せています。

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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