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冤罪を斬る -袴田巌さん無罪判決にみる警察と検察組織の問題点

無罪判決が下ると裁判所前でどこからともなく「バンザーイ」の声が上がった。


後藤嘉信撮影

ただしそこに袴田さんの姿はない。袴田さんは1968年に彼の上司、その妻、当時10代だったふたりの子どもを殺害した罪で有罪判決を受け、その後46年間にもわたり死刑囚として死刑執行の恐怖にさらされながら生き抜いた。取り調べを担当した捜査官は袴田さんの身体と心身に深刻なダメージをおよぼした。捜査官は12時間以上ぶっ続けで来る日も来る日も、袴田さんに自白を強要した。自白を強要してから19日目、袴田さんは自白した。

自白を強要している動画をご覧いただきたい(人権を踏みにじる捜査官の言葉づかいは極めて不快なものである。閲覧の際は注意してください)。

 

袴田さんは死刑囚として46年間もの日々のほとんどを、刑務所の、それも独房で過ごした。袴田さんの心は深刻なダメージを受けており、現在も公判に出席できない状態にある。この事件は日本で最も長く、最も許し難い冤罪事件なのだ。冤罪事件はなぜ、どのようにして起こるのだろうか。

日本の検察組織にはいくつかの制度的・運用的な欠点がある。

第一に、「起訴便宜主義」である。日本の検察は、制度によって事件を起訴するかどうかを裁量できる立場を保証されている。そのため「疑わしい」だけの人を無理やり起訴することができる立場にある。とりわけ日本の検察は99%に達する「有罪率の高さ」を誇っており、メンツをかけて有罪を勝ち取ろうとする。

第二に、「自白偏重主義」と取り調べの「密室性」という問題がある。かつて日本の取り調べは検察官の主導のもとに密室で長時間行われていた。弁護士の立会いなしに、警察や検察が被疑者を孤立させて取り調べるのだ。このため、取り調べられる方の心身の負担は相当なものとなる。取り調べの可視化(録音・録画)が一部で導入されているものの、現在も取り調べの全容を知ることはできない。

第三に、日本では検察が保有するすべての証拠を弁護側に開示する義務がない。そのため刑事事件において、多くの場合、検察は、自ずと裁判で不利な証拠を提出しない。つまり有利な証拠のみを提出しそれ以外を隠蔽することが可能なのである。

第四に、冤罪の修正ができない。できたとしての非常に困難である。冤罪であることを立証する新証拠が見つかっても、再審請求が認められることはほぼない。なぜなら検察が再審に強く反対するからだ。

 

袴田さんの冤罪事件は、以上4つの要因が複雑に交差し起こった。袴田さんのものとして提出された作業着に付着した血痕をDNA鑑定した結果は、袴田さんの無罪を示すものであった。にもかかわらず、今回の再審に至るまでに極めて長い時間がかかりすぎている。

私は、警察・検察組織の「腐敗」と「増長」を懸念している。捜査ミスや不正行為は誰がチェックするのだろうか。現状の制度では、第三者的な監視機関が機能しない。不正な起訴、不正な捜査がそのまま横行してしまうリスクが極めて高いのである。

ともあれ、半世紀におよぶ袴田さんの戦いは終わった。袴田さんのお姉さんである秀子さんは「ようやく肩の荷が下りた」と述べたという。おふたりとも残りの人生を豊かなものにしても欲しいと心の底から願っている。そして長生きをしてほしい。

 

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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