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「紀州のドンファン」殺人事件 傍聴記録 -元妻はなぜ殺したのかを推理する-

和歌山県田辺市の「紀州のドンファン」こと野崎幸助さん(以下、被害者)が覚醒剤を大量に飲まされ殺害された事件の被告人である元妻・須藤早貴(以下、被告人)の裁判員裁判(12日-13日)を傍聴しました。被害者は不動産業や酒類販売業で巨額の資産を築いており、美女4,000人に30億円を貢いだ「紀州のドンファン」と自ら称していました。豪華なライフスタイルや女性関係で有名でしたが55歳年下の被告人を妻に迎えてわずか3ヶ月後に殺害されました。

自ら喪主となる被告人(吉田隆撮影)

 

ただ、殺害されたのが2018年、元妻の逮捕・起訴が2021年、そして今回の裁判が2024年9月と、通常では考えられないほどの時間を要しています。被告人は、被害者と知り合う前に男性から約3,000万円の金を騙し取って懲役3年6カ月の詐欺罪の実刑判決を受けるなどの悪女。検察が慎重に証拠調べをしたなどの事情はありそうです。人を殺すには相当の覚悟が必要ですが、なにが彼女に一線を超えさせたのか、私はどうしても知りたかったのです。傍聴を希望する人の長蛇の列に並び気合を混入してくじを引いたところ見事当選。運が良かったです。

被告人はずっとマスクをしたまま「社長を殺したのは私ではないし覚醒剤も飲ませていません」と小さな声で述べました。これに対し検察は、被告人が財産目当てで結婚したこと、事件前に「完全犯罪」「薬物」など複数の殺害に関する情報を調べていたこと、薬物の密売サイトで大量の覚醒剤を注文したこと、被害者が覚醒剤を摂取したと考えられる日時に被害者と二人で自宅にいたこと、などを証拠とともに示し「十分な犯行動機、犯行機会がある」と主張しました。

被告人の顔色は化粧っ気もなく青ざめておりとても自信がなさげに見えたものですから、「普通に見えるこの人が殺人なんて」という印象を受けましたが巨額を前にすると人間は理性を失ってしまうのでしょうか。そうでないならば55歳年上の男性との夫婦関係に純愛は成立するのでしょうか。

一方、弁護人は無罪を主張しました。理由は「覚醒剤を口から飲んだにせよ殺すつもりであったかどうかも明らかでない上にどのように摂取したかもわかっていない。疑問が多く無罪にせざるを得ない」というものでした。

この裁判、今後は28人もの証人尋問が予定されているとのことで、被告人が結婚に至った動機や、殺害方法などが明らかになることが期待されています。
 

被告人は、最初から財産目当てで被害者と結婚したものの55歳も歳の離れた老人との結婚を公にはしたくなかった。このためは和歌山には定住せず月々100万円の生活費を受け取るという事実婚のような生活を続けた。

ところがこのような生活に不満を抱いた被害者が被告人との「離婚」を望むようになると、被告人は被害者の完全犯罪を計画し全財産を狙った。同時期にネットで「完全犯罪」や「覚醒剤 死亡」「殺す」といったキーワードを検索し下調べを始めた。さらに「密売サイト」で致死量の3倍以上の覚醒剤(3mg)を購入し殺人計画を着々と進めていった。

殺害は、被告人と被害者が自宅に二人きりであるタイミングを狙った。被害者が好んで飲んでいたビールに混ぜるなど、被告人が被害者に自然な形で口にできるような機会を狙って実行したと考えられる。警察の捜査が始まる前に友人たちには捜査に協力しないよう依頼した。

 

 巨額の富は人を狂気にしてしまう、というのは本当のようですね。

生前の被告人と被害者(吉田隆撮影)

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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