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パリ五輪の「性別騒動」 -メダリストのボクサーは女性なのか、男性なのか

パリ五輪が終わってはや1週間。今日はパリ五輪で起こった「性別騒動」について取り上げます。女子ボクシング66kg級と57kg級でそれぞれ金メダルと銀メダルを獲得したイマネ・ケリフ(アルジェリア)とリン・ユーチン(台湾)のふたりは、「本当は男なのでは?」「男なのに女の競技に出場しメダルを獲得したのでは?」という疑いのもとに激しい誹謗中傷がSNSに吹き荒れました。


イマネ・ヘリフ(Imane Khelif)公式インスタグラムより

ふたりは、生来のセックスは女性ですが「性分化疾患」という状態のためにXY染色体(男性に発現する染色体)を持っている特異な体質なのだそうです。ですからトランスして女性になった「男性」が女性のボクシング競技に乱入してメダルを獲得したわけではありません。この点、ふたりを「トランスジェンダーの元男性」として扱っていた一部のSNS情報は誤りでした。やはりSNS情報を鵜呑みにするのは危険ですね。

「性分化疾患」は、男性/女性として育つ過程が典型的なパターンとは異なるそうです。例えば年頃になると女性(男性)的な外見になるはずなのに男性(女性)的になった、など、通常とは異なる特徴が発現することがあります。ただし我々の社会は生来のセックスが尊重される「べき」社会です。日本でも生まれたときの性に基づいて法律や制度が適用されますから、異なる性として生きていくには数多の困難があります。そういう社会においてこのふたりが女性とみなされるのは当然であり、むしろ問題となるのは、主催者側に「性分化疾患」の選手たちを受け入れるか、排除するかの高度な判断が求められる点です。

パリ五輪で国際オリンピック委員会(IOC)は、ふたりは過去の競技大会に女性として問題なく出場した経歴があると指摘。前例にならい出場を許可しました。一方、かつて国際ボクシング協会(IBA)は安全性を考慮してふたりの出場を認めませんでした。このように大会ごとに異なる判断がなされることは、私は仕方がないと思います。それぞれの主催者が、競技の特性や道徳倫理に即してより良いルールを策定すれば良いと思います。国際オリンピック委員会(IOC)の判断にも、国際ボクシング協会(IBA)の判断にも、それぞれ賛否両論はありましたが主催者側の判断として尊重しなければなりませんね。

ちなみに、試合を動画で見た私の感想としては、イマネ・ケリフのパンチは「異次元」に強かったです。対戦相手であったアンジェラ・カリニ(イタリア)は、わずか46秒で試合を棄権する事態となりました。イマネ・ケリフのパンチ力に「生命の危険」を感じたということです。

人間の性というのは、いつ、誰が、どのような基準で判断するのでしょうか。その判断は本当に正しいのでしょうか。万が一、誤った判断をしてしまったのだとしたら、侵してしまった相手の人権をどのように扱ったら良いのでしょうか。性を扱っている研究者としてもパリ五輪の女子ボクシング競技は大変見応えのあるものでした。

 

 

 女探偵 堺浄(さかい・きよら)

政治家を経て、生成AIやITを駆使し過去の事件を分析する女探偵に。社会科学領域の研究者(慶應義塾大学大学院を経てPh.Dr.)でもある。掘り下げたいテーマは、女性はなぜ政治の世界で「お飾り」になるのか、日本の「タテ社会」と「ムラ社会」は不変なのか、内部告発は組織の不条理に抵抗する最終手段なのか。

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