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裏金議員の非公認を巡る石破政権の迷走

 衆院選での裏金議員の公認をどうするかについて、10月6日(日)に石破総理が方針を示しましたが、世論の感情論的な批判に媚びた判断であるようにも思えます。そこで、この問題について整理して論理的に考えてみたいと思います。

そもそも裏金問題では、自民党は以下の三段階の対応が必要なはずです。

(1) 裏金問題の経緯や対応についてどう説明責任を果たすか

(2) 裏金議員の選挙での党の公認(比例重複を含む)をどうするか

(3) 政治とカネの問題の根絶に向けた政治改革を実現するか

 

裏金議員は説明責任を果たすのが当然の義務

 このうち、 (3)の政治改革については自民党が“政治改革本部”を新設したばかり、これから検討なので、当面はその推移を見守るしかありません。

 これに対して、まず最優先で果たすべきは (1)の説明責任です。自民党が組織として裏金問題の全容を解明・公表するのが期待できない中、せめて裏金議員は個人レベルで説明責任を果たす義務があります。

 ただ、現実を見ると、個人レベルでは裏金問題への対応にかなり差があります。

議員によっては、裏金を受け取る際に、派閥事務局から政治資金としての処理不要と言われたけど、真面目に政治資金と同様に使った(使途は政治活動、領収書も保管)ので、収支報告書の修正で使途不明金はほぼなく、また記者会見を開いて詳細に説明した人もいます。

 その一方で、裏金の金額は少ないものの、収支報告書の修正をみると領収書がなく使途不明金だらけで政治資金の私的流用も疑われるのに、記者会見などを開いて説明していない議員もいます。

 こうした現実を踏まえると、個々の裏金議員にしっかりと説明責任を果たさせることは、有権者に納得してもらうために不可欠なはずです。

 ちなみに、石破総理は、総裁選の段階で“トップは一人一人の裏金議員から説明を受けるべき”、総裁選に勝利した日の会見で“総裁も説明責任を果たす必要ある”という趣旨の発言をしています。従って、個々の裏金議員のみならず石破総理も自民党のトップとして説明責任を果たす必要があるはずです。

 

世論の感情的な批判への対応を優先した非公認の方針

 残る問題は(2)の公認になりますが、報道によると、石破総理は10月6日(日)に、以下に該当する裏金議員は非公認とする方針を示しました。

①前政権で自民党の党則上、”選挙での非公認”より重い処分を受けた議員

②”非公認”より軽い処分でも、国会の政倫審で説明責任を果たしていない議員

③地元で十分に理解が進んでいない議員

 

 また、これらをクリアして公認する場合も、派閥の政治資金パーティを巡る政治資金の不記載があった議員は、比例代表への重複立候補を認めないようです。

 この判断は、一見すると裏金議員の公認問題に厳しく臨んでいて正しいようにも見えますが、論理的に考えると矛盾が多いように思えます。

 というのは、選挙で非公認とするのは裏金議員に対する処罰に他なりませんが、裏金議員に対しては岸田政権が4月の段階で既に処分を下しているからです。総理が変わってまた新たな処分を下すというのは、法律の世界でいう”一事不再理の原則”に反するように思えます。

この原則は刑事裁判に関するものですが、現実世界にも準用される場合が多いのです。例えば、企業が不祥事を起こして関係者を社内的に処罰した場合、経営陣が交代したら更に新たな処罰を加えるということは通常ありません。

 この観点から考えると、まず岸田政権時に”非公認”より厳しい”党員資格停止”の処分を受けた3名の議員(下村博文、西村康稔、高木毅)については、非公認でもやむを得ないかと考えられるので、①の基準についてはまあ理解できます。

しかし、②の基準については論理的に全く理解できません。”非公認”よりも軽い”役職停止”、”戒告”の処分を受けた議員は、その当時、国会の政倫審での説明を義務付けられていなかったからです。それをクリアしていないので非公認というのは、新たな処罰を加えることに他なりません。

もちろん、既に述べたように、個々の裏金議員が説明責任を果たすのは当然であり必要不可欠です。ただ、論理的に考えて、政倫審がその唯一の場とは言えません。会見を開く、地元で説明会を開催するなど、色々なやり方があって然るべきです。③の基準があれば②は余計なのです。

更に言えば、派閥の政治資金パーティを巡る政治資金不記載があった議員は比例重複を認めないという方針も理解不能です。派閥の事務局から言われた通りにやった(=意図的にやったのではない)だけで、今になって新たな処罰を加えるのは論理的におかしいからです。

それでもやるならば、政治資金収支報告書を修正する議員は皆、事務的なミスで意図的ではないと釈明することを考えると、修正したすべての議員の比例重複を認めないようにすべきではないでしょうか。

 

石破総理は“筋を通す”のが売りだったのを思い出してほしい

 発言の変節を厳しく批判され、政権発足直後の支持率も高くなく、衆院選での苦戦が必至となる中で、世論の感情的な批判にも応えざるを得ない石破総理の気持ちはよく分かります。

 しかし、あまりにそれが過ぎて、論理的におかしい部分、筋を通すべき部分まであっさりと妥協してしまうのを見ると、今後も様々な政治対応や政策立案でも同じことが起きるのではないかと心配になってしまいます。

 石破政権の世論に媚びた矛盾だらけの妥協はこれが最後になってほしいと、切に願わざるを得ません。。。

 

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

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